医療情報
胃がん予防のためのピロリ除菌療法
ピロリ菌とは一体何か
ピロリ菌は胃粘膜に棲むらせん状の桿菌で、胃酸を中和するウレアーゼという酵素を出すことで、胃の中に生息しています。現在のところ、ピロリ菌は人間の胃の中にしか存在しないことがわかっています。ピロリ菌の感染経路は不明ですが、感染は幼少時に起こり慢性的に持続し、胃粘膜の炎症を起こします。胃粘膜の慢性炎症によって慢性萎縮性胃炎と呼ばれる、胃粘膜が薄く萎縮した状態になっていきます。 胃粘膜の萎縮は年齢とともに進行するため、ピロリ菌の発見以前は、単純な胃の老化現象と考えられていましたが、ピロリ菌の感染のない方は年をとっても胃粘膜の萎縮が進みません。 すなわち、胃は、ピロリ菌感染があると歳をとっていき、感染がなければ若いままなのです。
胃がんの発症に対するピロリ菌の影響
ピロリに感染していなければ胃がんの発症はほとんどありません。
私たちは、1603名の方を10年間の観察したところ、感染者のグループからは5%の胃がん発見がありましたが、非感染者からは胃がんが見つかりませんでした。
胃がんになりやすい人は、ピロリ菌感染による胃粘膜の萎縮が進んだ胃の年齢の高い人で、胃の年齢はピロリ菌検査に加えて、胃粘膜萎縮のマーカーである血清ペプシノゲンの値を調べることで、わかります。 ピロリ菌感染がなく、胃粘膜萎縮のないA群、ピロリ菌感染はあるが、萎縮がまだ進んでいないB群、ピロリ菌感染があり、萎縮が進んでいるC群、ピロリ菌感染による萎縮が進み、ピロリ菌が排除されてしまったD群に分類すると、 A群→B群→C群→D群の順に胃の年齢が高く、胃がんになりやすいのです。
ピロリ除菌療法とは
ピロリ菌は薬で退治することができます。プロトンポンプインヒビターという胃酸を抑える薬と、2種類の抗生物質を1週間飲むことで、ピロリ菌が除菌できます。この治療法の成功率は80〜90%です。副作用は軟便・下痢、味覚異常、アレルギー、出血性大腸炎ですが、服薬を止めると改善します。
除菌が不成功となる原因として、ピロリ菌が抗生物質に対する耐性菌であることが考えられます。慢性気管支炎、副鼻腔炎などの治療でクラリスロマイシンという抗生物質を長期間飲んだことのある方は、耐性菌である可能性が高いので、注意が必要です。
1回目の除菌療法が不成功だった場合、抗生物質の種類を変えて再除菌を行うことで、90%程度の方は除菌できます。
ピロリ菌除菌による胃がん予防は可能なのか?
私たちは胃がんの内視鏡治療を受けで完治した人を経過観察して、治療後にピロリ菌除菌を受けた人と受けなかった人の、胃の別な場所に胃がんが発生する(異時性胃がん)率がどのくらい違うかを調べました。
54ヶ月の観察で、ピロリ菌除菌群からは異時性胃がんはみられませんでしたが、非除菌群から10%の方に異時性胃がんがみつかりました。
その後観察期間を延ばすと、除菌した人たちからも胃がんが発生してくることがわかりましたが、除菌しなかったグループに比べると明らかにその率は低いのです。
ピロリ菌除菌治療によって、胃粘膜における炎症が改善するため、胃がんが抑制できる可能性が示唆できます。少なくとも胃がんの治療後の方は、除菌療法を受けるべきです。
ピロリ菌除菌と胃がん予防については、現時点で以下のことが言えます。
- 1)胃がんの発症が30%以下に低下する可能性
- 2)若年者のほうがより有効性が高い
- 3)高齢者でも老化を阻止するのに有用
- 4)胃がんの早期発見に有用(胃粘膜がきれいになり、がんが発見しやすくなる)