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2008年02月号掲載記事

新型インフルエンザ

新型インフルエンザの流行は来るのか?

新型インフルエンザの大流行が懸念されています。

2003年頃からアジアを中心に、H5N1型高病原性トリインフルエンザの人への感染が報告され、患者の多くは死亡しています。

インフルエンザウイルスはA、B、Cの3種類があり、A型インフルエンザはウイルスの表面にある2種類のたんぱく質の型、H1〜15とN1〜9の組み合わせでさらに細かく分類されています。H5N1型高病原性トリインフルエンザは、A型インフルエンザの一つのタイプです。

高病原性というのは、呼吸器だけではなく全身の細胞に感染を起こすウイルスで、感染した鳥の致死率が高いインフルエンザウイルスという意味です、人に対しての病原性が高いという意味ではありません。しかし、これまでの人への感染事例をみる限り、人に感染した場合にも毒性が高いウイルスである可能性が高いようです。

ウイルスが感染する種は厳密に決まっていて、トリに感染するウイルスがトリ以外の動物に感染することはほとんどありません。しかし感染した鳥を大量に飼育しているなど、ウイルスに濃厚に接触することで、トリインフルエンザが人にも感染することが起こっています。また遺伝的にトリインフルエンザに感染しやすい人がいる可能性も指摘されています。

鳥から人への感染だけであれば、H5N1型高病原性トリインフルエンザが、人間に大流行することはありません。

今恐れられているのは、トリインフルエンザウイルスが人から人への感染するような変異を起こし、世界中に大流行が起こることです。

A型のインフルエンザは大流行した歴史があり、1918年のスペイン風邪(H1N1型)、1952年のアジア風邪(H2N2)、1968年の香港風邪(H3N2)、1977年のソ連風邪(H1N2)はすべてA型インフルエンザで、トリインフルエンザがヒトインフルエンザに感染したブタに感染し、交雑してヒトに感染するようになったと推定されています。

したがってH5N1トリインフルエンザが人から人に感染する、すなわちヒトのインフルエンザに変異する可能性は十分にあります。

さらに恐ろしいことに、これまで世界中で流行したスペイン風邪などのインフルエンザウイルスは低病原性であったにもかかわらず、多くの死亡者を出しましたが、H5N1は鳥に対して高病原性であり、これまでトリから人に感染した事例をみる限り、ヒトに対しても毒性が強いのです。したがって変異して人から人に感染するようになっても、人に対して毒性の強いウイルスであることが予想されます。

最近では中国において人から人への感染が疑われる症例が報告されていますし、H5N1インフルエンザで亡くなった患者に濃厚に接触していた人が、H5N1には感染していなかったものの、ヒトのA型インフルエンザに感染していた事例もあります。もしこの人がH5N1にも感染してしまったら、体内でウイルスの交雑が起こり、変異した新型ウイルスが発生したかもしれません。

アジア地域にはニワトリなどの家禽を野外で放し飼いにするところが多いため、野鳥からトリインフルエンザに感染しやすく、ヒトとトリのインフルエンザ両方にかかりやすいブタとニワトリを一緒に飼っている地域も少なくないため、ブタの体内でH5N1インフルエンザが容易に人→人感染を起こす新型インフルエンザに変異する可能性はかなり高いと言えます。

また過去のA型インフルエンザの世界的流行の時期とは比べ物にならないほど、人や物の移動が世界規模で、早いスピードで行われています。もし新型インフルエンザが発生してしまえば、世界的に流行が広まるまでに時間は、あっという間であることは間違いありません。

WHOでは現在の新型インフルエンザの流行を、6段階のうちのフェーズ3と位置づけています。

新型インフルエンザへの対策

渡り鳥の生態を変えることは不可能なので、トリインフルエンザを撲滅することは出来ません。またアジアの農村部での家禽の放し飼いや、ブタと一緒に飼育するというライフスタイル改善させることはすぐには難しいでしょう。

したがって、新型インフルエンザの発生を抑制するためにできることは、少なくとも個人ではほとんどありません。

せめてインフルエンザワクチンを接種しておくことです。現行のワクチンは新型インフルエンザにはおそらく効きません。しかし接種しておくことで、新型との混合感染が減り、また新型に感染した場合の発見がしやすくなります。

また新型インフルエンザが疑われる患者の発生地域に滞在した人が、38度以上の発熱と、咳、のどの痛み、呼吸困難があった場合にはすみやかに医療機関を受診してください。

目黒区および目黒区医師会は、厚生労働省や東京都と連携して、現在対策を協議中です。国内での感染が確認された場合には、発熱センターを設置して、新型インフルエンザが疑われる発熱患者を隔離して治療を行い、区内での流行拡大を防止することが計画されています。区民の行動や生活が制限される場合もあるかもしれませんが、ご協力をおねがいいたします。