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ご近所あら!さがし

ひもんやだより2008年2月号掲載

第14 時代布 池田

碑文谷在住のきものデザイナー、池田重子さんのギャラリー「時代布 池田」を訪ねました。ギャラリーはJR目黒駅のほど近くにあります。

池田さんは、アシェット婦人画報社の「美しいキモノ」に、1994(平成6)年より「季節の使者」「季節のまなざし」「おしゃれの架け橋」として池田重子流コーディネートや創作着物を発表されるなど、デザイナーとして活躍する傍ら、着物コレクターとしてもたいへんご高名です。

ギャラリーの上階にある、空調のゆきとどいたコレクション専用の倉庫でお話を伺いました。

池田さんのコレクションは、三十年余り前、オークションに出された旧財閥の家柄の方が所蔵していた「帯留」と出逢ったときに始まりました。

「生きていれば、家はいつかなんとかなるわ。でも、この帯留は今買わなければ、生涯出会うことはない。そしてまとめて買わなければ、二度と揃うことはない・・・」

池田さんは住宅資金を投じて、出品されていた帯留を全部、買われたそうです。

それから帯留のいい出ものがあると、人づてで池田さんに買ってもらいたいという話が集まってくるようになりますが、そのたびに池田さんは「この帯留とは一期一会」という気持ちから買い入れて、コレクションはどんどん増えていきます。

「昔の職人が作ったような細工の込んだ帯留が、これから新しく作られることはまずありません」と、池田さんはいとおしそうにコレクションを紹介してくださいました。

「帯留」というのは、女性が着物に結ぶ「帯」を締めるのになくてはならない帯締めにつけるアクセサリーです。「帯締」は紐状の物で、結び目が帯の真ん中に来ます。「帯留」はブローチ状のものに紐を通す金具がついており、金具に紐を通して帯に巻き、締めた帯の真ん中に来ます。

だらりの帯を締めた芸妓さんが締める大きな帯留、中に、いくつか違う宝石をはめ込んだものがあり、聞けば、石のひとつひとつが、旦那衆からのご祝儀だとか。粋な時代があったものです。私が一番、気になったのは、彫金の鯉の帯留でした。何の彩色もない黒ずんだ鯉なのに、くねらせた姿、鱗のひとつひとつが、とても優雅です。それは、新派の女形で、人間国宝の花柳章太郎さんが舞台で使用したものでした。

明治期に、帯刀が禁じられて、それまで刀のツバを細工していた職人たちが、彫金の帯留を作るようになり、手の込んだ物が多く作られるようになりました。それでも明治期は、日清・日ロの戦争があり、地味な物が多いのだそうです。世情の安定した大正〜昭和初期になると、女性の装いは色鮮やかで大胆なものが多く見られるようになり、帯留も大きくて斬新な趣向を凝らした物がたくさん作られました。

帯留だけにとどまることなく、着物やその周辺のものも一緒に集めることを、あるきもの作家に強く勧められ、着物・帯・半襟・帯揚・かんざしとコレクションの幅はひろがり、膨大な「池田重子きものコレクション」となっています。

コレクションは美術品として、また文化財として、高い評価を得ており、全国各地や海外でも展示会が開催されています。お伺いした日も、金沢の展示会からたくさんの荷物が帰ってきたところでした。

着物をお持ちの方ならお察しいただけるとおもいますが、八千点を超えるコレクションを管理するだけでも気が遠くなるような仕事です。

「池田重子きものコレクション」を今後どのようにしていくかのお話に及んだときに、池田さんはわが子の将来を案じるように考え込まれていたのが印象的でした。

〜池田重子きものコレクション〜 時代布 池田

<所在地>
港区白金台 5-22-11
<TEL>
03-3445-1269
<URL>
http://www.ikedashigeko-collection.co.jp
<開店日>
月〜金 : 10:30〜18:30
土 : 10:30〜17:00
(日、祝は休業)