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ご近所あら!さがし

ひもんやだより2007年12月号掲載

第13回 かふぇ り どぅ あんぐいゆ

学芸大学駅西口をでてすぐ右側のビルの2階にある喫茶店です。

「厳選された珈琲豆を乾燥・熟成(エージング)させ、深煎りにしました。ネルドリップで丹念に淹れた深い味わいをごゆっくりお楽しみ下さい。」という看板にちょっと緊張しながら階段を上がり、お店の戸を開けると、奥に細長い店内は落ち着いた静かな雰囲気です。

焦げ茶色の大きな梁、白い漆喰の壁、壁には年代もののクリスマスのイヤープレートが飾られています。

ちょうど2時過ぎ、お昼がまだだったので、ブランチのセットを注文しました。セットは2種類、クロックムッシュー(ハムとチーズのホットサンド)か、ツナマフィンのいずれかに、ブレンドコーヒー(マイルドタイプの「五番町ブレンド」・苦味タイプの「楡ブレンド」あり)がついて、850円。

私はツナマフィンとマイルドタイプのコーヒーを選びました。軽く焼いたマフィンに、タマネギのみじん切りがほどよく効いたツナがサンドされ、とてもおいしかったです。

珈琲は、ブレンドされていないストレートコーヒーの場合、注文毎に一杯ずつ淹れてくれます。まず壁に固定されたハンドル付きのコーヒー挽きで、豆をゴリゴリと挽きます。それから、ネルドリップで一杯分のコーヒーを入れていくのですが、その動作が、まるで茶道のお点前を見ているような、早くなく、遅くなく、無駄がなく、つい見入ってしまいます。できあがったコーヒーは、小さめのカップに注がれます。ここに、軽々しくミルクや砂糖を加えてしまうのは、失礼と思うほど、ありがたい一杯に見えてくるのです。

ブレンドコーヒーは、混み具合によって、5杯〜20杯分ほど作り置くそうですが、ストレートコーヒーを淹れる時と同じように、豆をコーヒー挽きでゴリゴリ挽いたあと、ネルドリップでゆっくりと淹れられます。

最近、外でコーヒーを飲むといえば、もっぱら紙コップに蓋をつけたまま、蓋の吸い口から飲むタイプだったのですが、本来コーヒーはこうあるべきだったのです。

カウンター越しに、ご主人の木村さんにお話を伺いました。

喫茶店を開いたのは昭和54年、開店以来30年間、ずっと変わらぬこのスタイルで続けてきたそうです。変えずに来たことに特別な理由はなく、「ただ、機械は入れたくない、お酒も(メニューに)入れたくなかった」から。

お話を伺っている間にも、お客さんが雑誌や文庫本などを片手にぽつり、ぽつりとやってきます。「30年前の30代の方が多いですかね。」と木村さん。

壁のお店の絵は、お客さんが描いてくれたもの、また、カウンター脇の時計は、洋食器の絵付けをなさっていた、木村さんのお母様の作品で、常連さんやご家族に支えられている「かふぇ り どぅ あんぐいゆ」です。

ちなみに、「かふぇ り どぅ あんぐいゆ」とは「うなぎの寝床」という意味。いらしていただければ、わかります。昼間だけでなく、夜は11時まで営業しています。

喫茶店とは、本来、時間を調整したりのどの渇きを癒したりするための場所ではなく、実生活から解放されたような感覚になれる貴重な空間、なんてことを考えながら、お店を後にしました。

かふぇ り どぅ あんぐいゆ

<所在地>
目黒区鷹番3-8-6
<TEL>
03-3710-3673