ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
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2026年02月号掲載
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ビタミン剤との付き合い方7 ビタミンCはちびちび摂りましょう

壊血病とビタミンCの発見

壊血病はビタミンCが欠乏することで起こる病気で、古代ギリシャ時代にもその記録が残されており、人類最古の病とも言われています。

ビタミンCはたんぱく質を合成するアミノ酸の一つ、ヒドロキシプロリンの合成に必須ですが、人間はビタミンCを体内で合成することができないので、食品として摂らなくてはなりません。ビタミンCが欠乏するとコラーゲン合成が阻害されて皮膚や血管を作ることが出来なくなり、脱力、体重減少、全身の痛みに始まり、進行すると皮膚や口腔粘膜からの出血、歯牙の脱落が見られ、傷や感染症が治らなくなり、死に至ります。

壊血病が大きな問題になったのは、ヴァス・コ・ダガマやコロンブス,マゼランらが活躍した15世紀にはじまる大航海時代です。長期の航海の最中は野菜や果実が不足してしまい、乗組員の多くがビタミンC欠乏で壊血病になりました。また戦場も生鮮食品を摂れないことから、兵士が壊血病になることが多く、20世紀にビタミンC欠乏が壊血病の原因と分かるまでは、原因不明の病気でした。

とはいえ18世紀半ばにイギリス海軍・軍医のジェイムズ・リンドはオレンジとレモンが最も効果的な治療薬であると発表しており、19世紀末には、同じくイギリス海軍の軍医であったギムレット卿が、艦内で配給されていたジンの呑み過ぎを防ぐために、兵士にジンをライムジュースで割って飲むことを推奨、これがカクテル「ギムレット」の起源と言われていますが、ライムジュースを使ったのは壊血病対策とおもわれます。

20世紀に入り、ノルウェー、オスロのクリスティアナ大学のアクセル・ホルストがモルモットを使った実験を行い、小麦のパンだけを与えたモルモットは壊血病症状を起し、リンゴなどの果実を与えると症状を回復することを1907年に発表しました。次いで1919年にイギリスの生化学者ドラモンドがオレンジの果汁に壊血病を防ぐ栄養素があることを発見し、これをビタミンCと呼びました。

さて、ビタミンC発見のきっかけとなったのが、「モルモット」を使った実験だったということがとても興味深いのです。ラットやマウスでは壊血病モデルは作れません。ラットやマウスは体内で、グルコースからビタミンCを合成できるからからです。ほとんどの爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類はビタミンCを体内で合成することができるので、壊血病にはなりませんが、ヒトを含む霊長類はグルコースからビタミンCを合成する反応の最終段階で必要な酵素、グロノラクトン酸化酵素が欠損しているため、ビタミンCを摂取しないと壊血病になってしまいます。そして、哺乳類でもモルモットが、鳥類ではスズメがグロノラクトン酸化酵素が欠損しています。なぜ我々が体内でビタミンCを作れなくなったのか?生物進化の最上位にいる霊長類以外にもグロノラクトン酸化酵素が欠損している動物がいるのか?は謎です。

ビタミンCを作れなくなった種では、果実をたくさん食べられる環境にいたものが生き残り、ビタミンCを体内で作る必要がなくなり、グロノラクトン酸化酵素を作る遺伝子が退化したのではないかという説がありますが、そうだとすれば、壊血病はアダムとイブが禁断のリンゴを食べてしまったことによる「原罪」かも知れませんね。

ドラモンドが壊血病を防ぐ成分として発見し、ビタミンCと命名した物質を分離することに成功したのは、ハンガリーの生化学者アルベルト・セントジョルジです。セントジョルジは副腎中に含まれる未知の強力な還元性物質を1927年に結晶状に分離し、1932年にこの物質がモルモットに対して坑壊血病作用を示すことがわかり、ビタミンCであることが判明しました。セントジョルジから試料提供を受けた英国の化学者ノーマン・ハワースの研究チーム1933年にその構造を明らかにし、アスコルビン酸、anti-(否定)+scorbutic(壊血病)ascorbic acidと命名されます。そしてこの構造決定によりビタミンCが医薬品として化学合成出来るようになったのです。その功績で、1937年度のノーベル医学生理学賞がセントジョルジに、化学賞がノーマン・ハワースに贈られています。

なおアスコルビン酸にはD体とL体の鏡像異性体(右手と左手のように、鏡に映したような構造関係)があり、ビタミンCとしての活性をもつのはL-アスコルビン酸です。鏡像異性体のある生理的物質において、活性があるのはL体だけという場合がほとんど(たとえば味の素のL-グルタミン酸など)で、その理由はわかっていません。

ビタミンCの働きと摂り方

ビタミンC不足が壊血病の原因であることからわかるように、ビタミンCはたんぱく質の合成に深くかかわっているため、全身の臓器、皮膚、筋肉を維持するためには不可欠な成分です。また、アスコルビン酸は還元性を持ち、活性酸素など酸化物質の存在下で、自身が2個の水素イオンを放出してデヒドロアスコルビン酸に変わることで、他の物質の酸化を防ぐ強い抗酸化作用を示します。強い抗酸化作用を持つことから、アスコルビン酸は食品の酸化防止剤として広く用いられています。多くの食品の成分表示ラベルには「酸化防止剤(ビタミンC)」と書かれています。

紫外線によって発生する活性酸素にでメラニンが生成されて皮膚にシミが生じます。ビタミンCは活性酸素の働きを抑えることからメラニンの生成を減らします。これがビタミンCの美白効果です。

ビタミンCの抗酸化作用は、皮膚だけでなく全身の細胞の抗酸化ストレスを抑える働きがあるため、細菌やウイルス感染に対する免疫を高める働きや、抗がん作用を持っています。冬にみかんを食べると風邪をひきにくい、というのは根拠があるわけです。

ビタミンCの半減期(血中濃度が半分になる時間)は約2日と短く、16日間一切ビタミンCを摂取しないと欠乏症が現れますので、毎日しっかり摂取しましょう。厚生労働省はビタミンCを1日100mg摂取することを推奨しています。喫煙者はニコチンがビタミンC吸収を妨げるため135mgを推奨量としています。ただし臓器によってビタミンCの要求量には大きな差があり、圧倒的に必要としているのがステロイドホルモンを産生している副腎で、血中濃度の150倍のビタミンCが存在しています。セントジョルジュがビタミンCを分離したのも副腎からでした。次に多いのが免疫の主役である白血球、そして脳と目です。これらの臓器に常に十分にビタミンCを行きわたるようにしなくてはなりませんので、ビタミンC製剤やサプリメントの1日量は厚生労働省の推奨する100mgを大きく越えていて、例えばシナール錠には1錠あたり、アスコルビン酸200mgとパントテン酸カルシウム(ビタミンB5)3mgが含まれていて、これを1日3回というのが標準量です。

ビタミンCは水溶性ビタミンなので、過剰に摂っても尿として排出されるので、過剰症の心配はありませんが、逆に一度にたくさん摂っても、まず小腸から吸収されない、そして吸収されても尿から捨てられてしまうので、一回量は少なくてもいいのでこまめに摂ることをお勧めします。みかんを食べる時はひと房ずつゆっくり食べる、果物ジュースや野菜ジュースはちびちび時間をかけて飲んでください。

ビタミンCは野菜や果実など多くの食品に含まれていますが、熱に弱く、水溶性のため流出してしまうことに注意しましょう。できるだけ生か、短時間の加熱で調理する、そして煮汁もスープにして摂りましょう。ジュースに関しては濃縮還元されている場合はビタミンCはほとんど残っていなくて、酸化防止剤として加えたアスコルビン酸をビタミンCとして摂ることになります。それよりは糖の過剰で急速な吸収の害があるジュースではなく、ビタミンCの製剤を服用することをお勧めします。

ビタミンCは皮膚からも吸収され、化粧品や美容パックなどにも使われていますが、皮膚吸収は小腸からの吸収よりも圧倒的に少ないので、経口摂取を基本にしてください。

美容系の医療機関や一般の医療機関でも、自費診療としてビタミンC点滴を行っているところがあります。美容効果だけでなく、免疫効果、抗がん効果などが謳われていますが、「高濃度ビタミンC点滴療法」に関するレベルの高い研究報告は今のところありません。

経口摂取の場合には小腸からの吸収量に限界がありますが、点滴投与では一時的ではありますが、桁違いのビタミンC血中濃度になり体内が強力な抗酸化状態になって、美容効果、健康効果が得られるというのが「高濃度ビタミンC点滴療法」が支持される理由です。ただし、どんなに大量に点滴投与しても、過剰なビタミンCはあっという間に尿から排泄されてしまうので、持続的な効果は得られません。G6PD欠乏症といって、赤血球の膜を守るグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)の不足で赤血球が壊れやすく貧血になる病気の方は、ビタミンCの過剰な抗酸化力で赤血球が壊されてしまうので、「高濃度ビタミンC点滴療法」は受けられません。G6PD欠乏症の方はそら豆の摂取で、そら豆のビシンなどの成分によって、溶血を起こすことがあります。

「高濃度ビタミンC点滴療法」による健康上のデメリットはほとんどありませんので、効果を感じて、費用に見合うとおもわれる方はどうぞ。私は今のところビタミンC の点滴投与に、費用と点滴にかける時間に見合う効果があるとは判断できませんので自分では受けませんし、患者さんにも提供していません。

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