ビタミン剤との付き合い方1
当院でビタミン剤を処方している患者さんだけでなく、市販薬やサプリメントとして服用されている方や、健康補助食品の中にビタミン成分が含まれている場合もあり、多くの方が野菜や肉などの食材以外からビタミンを摂取しています。
ビタミンには脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンがあり、過剰摂取が問題になるのは脂溶性ビタミンです。複数の総合ビタミン剤や、栄養食品を摂っている場合、それぞれに脂溶性ビタミンが入っていると、トータルで過剰摂取になってしまうので、注意が必要です。水溶性のビタミンは多く摂っても尿から排泄されてしまいますので、過剰摂取はあまり問題になりません。逆に一度にたくさん摂っても効果が得られにくい。食品から摂る場合にはゆっくり吸収されるのですが、ビタミン剤として服薬すると一気に吸収されて、すぐに腎臓で代謝されて出て行ってしまい、血中の濃度を保ちにくいのです。
今回は各種ビタミンの役割と、効果的な摂取方法について考えてみます。
脂溶性ビタミン : ビタミンA、D、E、K
油に溶けやすいビタミンなので、食材を炒めるなど、油脂を使った調理をすることで、効率よく摂取できます。
サプリメントなどの製剤を服用するときも、空腹時よりも食直後の方が効果的ですが、製剤としての摂取は過剰摂取のリスクもあります。
ビタミンA 目と皮膚のビタミン、なるべく食品から
ビタミンAは目や皮膚、粘膜の代謝を促進し、細胞の成長にもかかわっています。ビタミンAの不足で視力低下や場合によっては失明する場合もありますが、現在では稀です。過剰摂取の方が問題になります。過剰摂取した場合には、頭痛や吐き気、皮膚の乾燥、脱毛、肝機能障害を起こすことがありますので、ビタミンAは製剤ではなく食品から摂ることをお勧めします。
ビタミンAが多く含まれる食品は、レバー、ウナギ、乳製品です。にんじんや緑黄色野菜に含まれるβカロチンは体内で必要量だけビタミンAに変換されるので、これらの野菜を食べることは過剰摂取の心配もなく有用ですが、βカロチンのサプリメントの過剰摂取は発がん率を上げるという報告もありますので、注意が必要です。
ビタミンD 骨と免疫のビタミン、日光浴で増やせます
ビタミンDには植物由来のビタミンD2と、動物由来のビタミンD3があり、骨の代謝と免疫力をあげる働きがあります。不足すると骨粗しょう症のが進行したり、感染症をおこしやすくなります。し最近はほとんど見られなくなった、くる病は遺伝にビタミンD不足が重なっておこります。これも珍しくなった腰の曲がったおじいさん、おばあさんもビタミンD不足が原因の一つです。ビタミンDの血中濃度の低い人は新型コロナ感染率が高いという報告もあり、コロナ禍の時期にはビタミンD製剤が品薄になりました。
過剰摂取すると、高カルシウム血症や腎障害、軟組織の石灰化を起こす可能性がありますが、日本人、特に高齢者ではビタミンDが不足気味です。
ビタミンD3は我々の体内で合成することができます。日光に含まれる紫外線B波(UVB)が皮膚にあたると、表皮に存在する7-デヒドロコレステロールがUVBを吸収しコレカルシフェロール(ビタミンD3)が生成されます。UVBはガラスに吸収されやすいので、直射日光にあたる必要があります。太陽光を週に2回、5分から30分間浴びることで、十分な量のビタミンDが体内で生合成され、生成されたビタミンDは脂肪組織や筋肉に保存され、必要に応じて徐々に血流へ放出されます。
ビタミンDが多く含まれる食品は、魚介類、キノコ類です。
骨粗しょう症の方、日中を屋内で過ごすことの多い方、病気療養や寝たきりで日光浴が難しい方は、ビタミンD製剤での補充をお勧めします。
ビタミンE 抗酸化ビタミン、血液サラサラと美容に効果、ナッツを食べよう
ビタミンEの主な働きは抗酸化作用で、生体膜の主要な成分であるリン脂質や、体内の脂質の運搬に関わるVLDL、LDLと呼ばれるリポタンパク質に存在する多価不飽和脂肪酸の過酸化を抑制します。抗酸化作用により動脈硬化の進展を抑え、血流を良くすることで高血圧などの生活習慣病やその合併症が進むことを防ぐ効果があります。また血行を良くすることに加え、抗酸化作用で皮膚の新陳代謝を高めて、皺やシミの生成を抑える効果も期待できます。
ビタミンEが不足することで、肩こりや腰痛、手足のしびれなど血行障害が出ますが、実際には通常の食生活でビタミンE不足になることは稀です。ビタミンEはアーモンドやナッツなどの種実類に多く、油脂類、穀類、魚介類、豆類、野菜類などにも含まれていますが、ビタミンEの多い食品は総じてカロリーが高いため、こうした食品を摂り過ぎることによる肥満や生活習慣病が問題になります。カロリー制限をしながら摂取ビタミンEの量を確保するには、ビタミンE製剤の服用は有効です。ビタミンEの過剰摂取で、下痢や、血液が止まりにくくなることがありますが、脂溶性ビタミンの中では排出されやすく、胆汁系を介して摂取量の2/3は便と一緒に排泄されます。
ビタミンK 骨を丈夫に、出血を抑えるビタミン。納豆を食べよう
ビタミンKは、肝臓で血液凝固因子を活性化させる働きを持ち、血液の凝固を促進します。またカルシウムを骨に沈着させて骨の形成を促す作用もあり、骨を丈夫にして、骨折を予防する効果があります。
ビタミンKにはフィロキノンと呼ばれるビタミンK1と、メナキノンと呼ばれるビタミンK2の2種類が存在します。ビタミンK1は海藻、緑黄色野菜などに多く含まれ、また、ビタミンK2は動物性食品、特に鶏肉、卵黄に含まれ、微生物によっても合成されるため、納豆やチーズなどの発酵食品に多く含まれ、特に納豆は1パックの半分で1日に必要なビタミンKを摂取できます。また私たちの腸内細菌もビタミンK2を産生してくれています。
ビタミンKは無害なので過剰摂取については心配ありませんが、ワルファリンの作用と拮抗しますので、不整脈や脳梗塞後、心筋梗塞後などでワルファリンを飲んでいる方はビタミンKは禁忌で、納豆などビタミンKを多く含む食品は避けるべきです。
ビタミンKが不足した場合には、血が止まりにくくなり、鼻血が出やすくなったり、歯ぐきから出血しやすくなるといった症状がみられます。また消化管出血、過多月経の原因にもなります。慢性的に不足すると、骨粗鬆症が進み骨折しやすくなります。またビタミンK欠乏は新生児期に起きやすく、頭蓋内出血や消化管出血を起こすこともあります。成人の場合、普通に食事を摂っていればビタミンK不足をきたすことは稀ですが、脂質異常症でスタチン系というコレステロールを下げる薬を飲んでいる方は少し注意が必要です。スタチンはビタミンK2の合成を阻害するためです。またステロイド治療後の骨粗しょう症などでビタミンDを大量に摂取している方は、ビタミンKも消費されてしまうので、ビタミンKの補充が必要になります。
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