動物由来の感染症を知っていますか ペットとの接触は要注意
連休中の休診日を利用して、奈良を旅行しました。奈良公園を歩いていると、鹿が近寄ってきます。うまく避けないとぶつかってしまいそうになります。鹿を撫でたり頬ずりしている観光客もいますが、野生動物を素手で触るのは危険です。鹿の皮膚にはツツガムシ病の原因になるリケッチアが寄生している可能性があります。古来から動物との接種が原因の病気は多く報告されており、新型コロナウイルスも、中国武漢のコウモリに由来するのではないかといわれています。
野生動物だけでなく、人間が飼っているペットに由来する病期も少なくありません。先日難治性の皮膚炎の患者さんを皮膚科にご紹介したところ、真菌性皮膚炎の診断で、お飼いになっている猫からの感染ということがわかり、猫も動物病院に通院中とのこと。ご自身で飼っている犬や猫、鳥が原因で喘息になったり、訪問先にペットがいて呼吸困難を起こされた患者さんもいらっしゃいました。室内犬を買っている方の衣服についている毛でも症状を起こしてしまう方もいます。ペットアレルギーの患者さんも少なくありません。
厚生労働省も動物由来の感染症への注意喚起を行っていますので、一部ご紹介いたします。
詳細は動物由来感染症(PDF)をご覧ください
犬猫由来の主な感染症
パスツレラ症
病気の特徴(症状)
咬かまれたところの腫れと痛み、その後、急速に、皮下の炎症が深く広い範囲に拡大した蜂窩織炎になることがある。まれに敗血症に進行する。局所症状が出るのが早いことが特徴で早いときは1時間以内に発症する。気道から感染すると、風邪様症状、気管支炎、肺炎、副鼻腔炎などを示す。
感染経路・感染状況
犬や猫等の動物の気道や口の中に普通に見られる細菌で、主に動物に咬かまれて感染するが、飛沫を介した経気道感染もある。
予防
咬まれないように気を付ける。動物と口移しやキスなどしないようにする。
猫ひっかき病
病気の特徴(症状)
1週間前後で受傷部の丘疹・水疱、発熱を示す。その後、傷口の上位のリンパ節が痛みを伴って腫脹する。通常、予後は良好で、症状が数週間~数カ月継続するものの、自然治癒する。
感染経路・感染状況
原因菌は猫の赤血球内に存在する。保菌した猫に、かまれたり、引っかかれたりして、皮膚から直接感染する。まれに保菌猫を吸血したネコノミから感染することがある。特に子猫の保菌率が高く、保菌猫も患者も西日本に多い。
予防
ひっかかれないように気を付ける。猫にはノミの駆除や防虫薬などを使用する。
カプノサイトファーガ感染症
病気の特徴(症状)
主な症状は、発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛等。まれに重症化して、敗血症や髄膜炎を起こし、播種性血管内凝固症候群(DIC)や敗血症性ショック、多臓器不全に進行して死に至ることもある。重症化したときの症状の進行は早い。患者の大半が40歳代以上で、男性が約70%を占める。
感染経路・感染状況
犬や猫の口の中に普通に見られる細菌で、主に咬傷・かき傷から感染するが、傷口をなめられて感染することもある。
予防
咬かまれたり、ひっかかれたり、特に傷口などをなめられないように気を付ける。
コリネバクテリウム・ウルセランス感染症
病気の特徴(症状)
感染初期は発熱・鼻汁排泄等の風邪に似た症状で、その後、咽頭痛や咳が始まり、ジフテリアと同様に扁桃や咽頭等に偽膜形成や白苔を認めることがある。まれに重症化すると呼吸困難等を示し、死に至ることもある。
感染経路・感染状況
本菌に感染した犬や猫との接触や飛沫により感染する。海外では、犬や猫以外にも牛等の家畜との接触や、殺菌されていない生乳の摂取による感染例もある。
予防
成人用ジフテリアトキソイドやDPT-IPV(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ)4種混合ワクチンが予防に効果があるとされている。くしゃみや鼻汁等の風邪様の症状や皮膚病を呈している動物との接触を控え、動物と触れ合った後は手洗い等を行う。
トキソプラズマ症
病気の特徴(症状)
感染時期や感染者の状況で異なる。妊婦の初感染では胎児にも感染して、死流産や先天性トキソプラズマ症(水頭症、精神運動機能障害など)の可能性がある。健康な成人や小児が初感染したときの多くは無症状だが、体内に潜伏し、免疫力が低下すると、日和見感染として脳炎や肺炎を起こすことがある。
感染経路・感染状況
猫はトキソプラズマの終宿主で糞便中にオーシストを排出する。そのオーシストを取り込むことでブタなど哺乳類や鳥類は体内組織にシストを形成する。人は猫が排出したオーシストを直接または土いじりなどを介して間接的に経口摂取するほか、加熱の不十分な食肉中のシストの経口摂取によっても感染する。数パーセントの猫・ブタが感染していると考えられる。
予防
食肉(特に豚肉)や鳥肉は十分に加熱して食べる。猫に生肉を与えない。感染猫から排出されたオーシストが感染能を獲得するまでに約24時間を要するので、糞便の処理は毎日(24時間以内に)行う。
ブルセラ症
病気の特徴(症状)
一般的に症状は不明熱や倦怠感など風邪様で軽微か、気が付かないケースも多い。しかし、濃厚感染すると重症化することもあり、また、慢性化して長期間罹病の報告もある。
感染経路・感染状況
感染犬は、死流産を起こして流産胎児や排泄物中へ、また、尿や精液にも排菌する。これらに接触または飛沫等の吸入により感染する。1970年代に国内で犬の感染が見つかって以降、現在でも、国内の犬の3%程度が感染している。
予防
信頼できるブリーダーから購入する。飼い犬が流産等をした場合の処理には気を付ける。感染の確認には抗体検査が用いられる。感染犬には投薬治療も行われるが、慢性化していると治療は困難である。犬用や人用のワクチンはない
鳥由来の感染症
オウム病
病気の特徴(症状)
突然の発熱(38℃以上)で発症し、咳や痰を伴う。全身倦怠感、食欲不振、筋肉痛、関節痛、頭痛等のインフルエンザのような症状を示す。重症では呼吸困難、意識障害等を起こし、診断が遅れると死亡する場合もある。
感染経路・感染状況
インコ、オウム、ドバト等の糞に含まれる菌を吸い込んだり、口移しでエサを与えたりすることによっても感染する。2002年、2005年、国内の動物展示施設で従業員や来場者に集団感染があった。2014年、2021年には事業所でドバトが原因の集団感染があった。妊婦は重症化する傾向があり、胎児の死亡も報告されている。
予防
インコ、オウム類に口移しでエサを与えない等、濃厚な接触を避け、節度ある接し方が大切である。特に妊婦は注意する。ケージ内の羽や糞はこまめにそうじし、鳥の世話やケージのそうじをするときは、マスクや手袋を着用する。病鳥から大量の菌が排せつされるので、鳥の健康管理に注意する。また、ベランダや換気扇の排気口などにハトが巣を作らないように注意する。鳥を飼っている人が治りにくい咳や息苦しさ等の症状を感じたらオウム病を疑って受診し、鳥を飼っていることを医師に伝える。
クリプトコックス症
病気の特徴(症状)
健常者の肺クリプトコックス症例では無症状のことが多いが、発症すると風邪様症状を示す。免疫力が低下していると、時に慢性の肺疾患に進行する。皮膚クリプトコックス症例は皮疹などの皮膚症状を示す。脳髄膜炎症例では、発熱や頭痛を示し、吐き気や嘔吐、項部硬直などの髄膜刺激症状、性格変化や意識障害などの神経症状が見られることもある。
感染経路・感染状況
土壌など環境中に存在する真菌で、吸入や傷のある皮膚を介して感染する。ハトなど鳥類の糞ふん中でよく増えて、感染源の一つになる。
予防
免疫力の低下している人は、公園や駅などの鳥類(ハトなど)の糞が堆積している所に近づかない。飼育者はこまめに糞をそうじする。
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