ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2025年04月号掲載
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みんなで減らそう! ゲゲゲの「下痢止め」「解熱剤」

下痢止めは出したくない~感染性胃腸炎が流行しています

トイレットペーパーのイメージ

下痢、嘔吐を訴えて来院される患者さんが年齢を問わず、ここ数日増えています。

急な発症の下痢、嘔吐の多くは、何らかのウイルス、菌による感染性胃腸炎で、水分をしっかり摂って休息していれば、ほとんどは数日で改善します。

放置していても治る感染性胃腸炎なのか、高度な脱水状態や虚脱、腸閉塞や腸重積など外科治療を含めた緊急性のある状態なのか、がんや潰瘍性大腸炎など症状の原因になっている疾患を精査する必要があるかを判断することが一番大切で、私もそこを中心に拝見していますが、患者さんのご来院目的は「下痢を止めること」「吐き気を止めること」です。

なぜ、吐いたり、下痢をするのかといえば、私たちの身体に、身体から出したいもの、吸収させたくないものが入ってきているからです。消化管を動かしているのは管を裏打ちしている筋肉なので、食事は実は身体にとってかなりの重労働です。消化管が疲れてオーバーロードの場合には、下痢や嘔吐で消化管内容物を出してしまって楽になりたいわけです。また細菌やウイルス、その他身体に良くない物質が消化管内に入ってきたときには、下痢や嘔吐によって体内に吸収させることなく出してしまいたいのです。

下痢止めを飲むということは、そうした身体の防御反応を抑えてしまうことになります。水分さえ摂れていれば、下痢止めは飲まないほうがいい。水分摂取が出来ない場合には、脱水を防ぐために吐き気止めは使ってもいいとおもいます。身体の約60〜70%が水分で、大人の場合、発汗で毎日約600ml、呼吸で約400mlの水分が失われているので、最低でもこの分は水分補給しなくてはならない。

吐き気が強く口から水分が取れない場合には、吐き気止めに加えて、点滴による水分補給も考慮します。脱水は、尿が出ているかどうかが簡単な指標です。脱水が強くなると、身体は水分の放出を絞り尿量を減らします。高齢者では脱水ではなく前立腺や膀胱の疾患で、尿は作られているのに膀胱から出せずに、結果尿が出ないという場合もありますので、超音波検査で膀胱に尿が貯まっているかを確認します。

さて、いちばん困るのは、水分は摂れるけれども「水分を摂っても下痢で出てしまうから我慢している」という患者さんです。下痢の時に一番大切なことは水分の補給で、下痢を止めることではありません。水分を取って脱水を予防しながら、下痢を見守りましょう。水分を我慢して下痢止めを飲むのは間違った対応です。

とはいえ「下痢を止めて欲しい」といらっしゃる患者さんに、「下痢止めは服用しない方がよい」と説得するのは、焼き鳥屋さんがお客に焼き鳥は注文しない方がよい、というような感じで、なかなか難しい。また、誰もがお家で下痢が止まるまで何日も休んでいられるはずはなく、多くの方は早く下痢を止めて会社に行きたい、家事をしなくてはならない、とおもってのご来院なので、最小限の下痢止めは処方していますが、下痢が軽減したら薬は止めていいですよ、とお伝えしています。

敵に解熱剤を送る?

体温計のイメージ

3月に入って、また急に冷え込んで雪まで降ってしまったせいか、発熱で受診される患者さんがまだ少なくありません。新型コロナウイルス感染や、インフルエンザA型、B型の患者さんもいらっしゃいます。

お熱が辛くてご来院されているので、熱を下げて差し上げるのが我々の仕事、ということになりますが、ここでも悩んでしまいます。

ウイルスや細菌に感染したことによって熱が上がるわけですが、それはウイルスや菌の働きではありません。体内で増殖するウイルスや細菌と戦ってくれる我らが免疫細胞である白血球やマクロファージの働きを高めるために、私たち自身が脳の視床下部の体温中枢を調節して、体温を上昇させているのです。そして38度以上に体温が上がると、ウイルスや菌が増殖しにくい環境になります。

感染によって傷ついた細胞からはアラキドン酸という物質が放出され、これがシクロオキシゲナーゼという酵素の働きでプロスタグランジンという神経伝達物質になります。プロスタグランジンは視床下部に緊急事態を知らせ、免疫力を上げるために体温上昇を促すのです。だから、発熱に対して解熱剤を使うということが、いかに理に適っていないかがお分かりいただけるとおもいます。

でも、熱で来院された患者さんに、解熱剤は飲まない方がいいというのは、焼き鳥屋さんが焼き鳥を…なので、38.5度以上でどうしてもつらいときに、ということで解熱剤をお出ししてはいます。

水のボトルのイメージ

解熱剤は、解熱鎮痛剤とも呼ばれ、熱にも痛みにも効きますが、その理由は痛みもプロスタグランジンが脳に伝えているからです。

ロキソニンなどのNSAID系と呼ばれる解熱鎮痛剤は、アラキドン酸をプロスタグランジンに変換するシクロオキシゲナーゼを阻害することで、プロスタグランジンの生成を抑えます。戦場から作戦本部への斥候を帰さないようにするわけで、ロキソニンを飲むと、ウイルスや細菌との戦況は不利になってしまうのです。

カロナールなどアセトアミノフェン系と呼ばれる解熱鎮痛剤は、視床下部に直接働きかけます。作戦本部が体温を上げようとしているのを妨害するわけです。戦況は伝わっているので、作戦本部のやる気が強くカロナールが妨害しきれない場合は熱はあまり下がりません。カロナールがロキソニンに比べて効果が穏やかで安全と言われるのはそのためです。

発熱時の一番良い対策は、免疫力を上げ、ウイルスや菌の増殖を阻んでいる高体温状態に耐えて、じっと戦況を見守ることです。ただし体温が1°C上昇すると代謝が13%も増加するため、ただ休んでいても発汗や呼吸で大量の水分が失われますので、水分補給はしっかり行ってください。

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