ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2025年03月号掲載
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医療で予知・予防できるがんは5つだけ

がんにならないようにするにはどうしたらいいのか?

それはがんになる前に、がん以外の病気で亡くなることです。

がんの最大の原因は、加齢です。長生きすればするほど、発がんのリスクは高まります。複数のがんを克服して長生きしている方もたくさんいらっしゃいますので、がんになることをあまり心配しないほうがいい。心配するストレスも発がんの原因になります。

とはいうものの、予知、予防できるがんは避けておくに越したことはありません。

現在のところ、医療手段で予防、予知できるがんは5つだけです。

胃がん

胃がんはピロリ菌感染が最大の原因です。ピロリ菌が胃に感染して定着するのはおおむね4歳以下の幼少期なので、まずはこの時期にピロリ菌が口から入らないようすることが大切。親が食品を噛んでから食べさせることをしない、乳幼児と食器を共用しない、保育園などではしゃぶれるようなおもちゃを置かないようにすることで、ピロリ菌感染を防げます。

大人が胃がんを予防、予知するには、まずはピロリ菌感染の有無をチェックする。これは中学生以上であれば、尿、血液、呼気で簡単に調べることができます。そして感染があれば早めに菌を退治することです。ピロリ菌除菌治療は抗生物質と胃酸を抑える薬を1週間のむだけの簡単で安価、そして成功率の高い(90%程度)治療です。大人になってからのピロリ菌感染はほとんどないので、一度除菌してしまえば再感染もほとんどありません。ピロリ菌除菌による胃がん予防効果は若い程(感染から時間が経っていない程)高いので、中学生のピロリ検査を実施している自治体もあります。ピロリ感染がある人が全員胃がんになるわけではありませんが、胃がんになるのはほとんどはピロリ感染のある方、あった(除菌した)方なので、中学生以上の人は、一度はピロリ菌検査を受けて、陽性であれば除菌治療を受けておく、除菌治療を受けた方は定期的に胃の検査を受けることをお勧めいたします。

肝臓がん

肝臓がんは突然発症するがんではありません。肝臓がんの多くは慢性肝炎から肝硬変になる過程で発症します。慢性肝炎の原因の多くはB型肝炎、C型感染ウイルス感染です。

B型、C型とも体液が主な感染経路で、かつては輸血、出産時の母子感染、学校などでの集団予防接種時の注射針の使いまわしが感染拡大の原因でしたが、現在は輸血や出産時のスクリーニングが実施され、注射針は使い捨てなので、それらが感染源になることはなく、感染者数は激減しています。特殊な例として、不衛生な環境での刺青や、薬物中毒者の注射器の使いまわしも原因になります。ウイルス肝炎の治療も進歩普及し、感染者が減少したため肝がんは減っています。また慢性肝炎の原因は肝炎ウイルス感染だけではなく、脂肪肝、膠原病、アルコールも原因となりこちらは減っていないので、ウイルス感染に由来する肝臓がんの比率も相対的に低下しています。

とはいえ、B型肝炎、C型肝炎ウイルス感染を予防することは重要です。B型肝炎については予防接種があり、乳幼児の定期接種にもなっており、大人にも効果があります。

B型肝炎、C型肝炎のウイルスに感染しているかどうかは、血液検査でわかりますので、検査を受けて陰性、そしてB型肝炎ウイルスの抗体がない(免疫がない)ということがわかれば、予防接種を受ける。万一感染があることが分かった場合には、B型肝炎もC型肝炎も専門の元で適切な治療を受けることで、ウイルスを除去することも出来るようになりました。

肝臓がんは、前段階の慢性肝炎、肝硬変とあわせて予知予防が可能になり、実際に減少しているがんの代表といえます。

子宮頸がん

子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス感染が原因です。特に16型と18型の毒性が強いことが知られています。感染経路は性行為です。パピローマウイルスは肛門がん、咽頭がん、陰茎がんの原因にもなるので、男性にとっても無縁ではありません。ヒトパピローマウイルス、特に毒性の強い型の感染の有無を調べることで、発がんを予知する研究が進めらていますが、感染しても発がんしない人も多く、感染消退再感染を繰り返す例もあり、またウイルスの変異も多く、そしてウイルス検査の検体は、子宮頸がん検診の細胞診と同様の方法で子宮膣部から採取するため、ヒトパピローマウイルス単独の検査を行うメリットが実用上あまりなく、今のところ細胞診の補助的な存在です。

子宮頸がん予防対策の中心は若年者のワクチン接種です。ワクチン接種が進んだ国では子宮頸がんを含むパピローマウイルス由来の疾患が減少しています。我が国は接種後の副反応の問題で、接種が停滞してしまいました。またナーバスな疾患なので、中学生に予防意義を伝えるのは日本人にとっては苦手なのですが、乗り越えて行かなくてはなりません。公費接種対象のワクチンなので、接種対象年齢のお子さまにはぜひとも接種させてください。

前立腺がん

前立腺がんは、前立腺特異抗原PSA(prostate specific antigen)という腫瘍マーカーによく反応するがんです。PSAは前立腺でつくられるタンパク質の一種で、がんや炎症により前立腺組織が壊れると、PSAが血液中にもれ出し、血液中のPSA量が増加します。

PSA値4以下ではほとんどがんはなく、4以上からがんが見つかるようになり、PSAの数値が高ければ高いほど、がんが見つかる率が高くなります。腫瘍マーカーと名の付く検査はたくさんありますが、PSAはがんのスクリーニングに使える、そして早期発見に役立つ唯一の腫瘍マーカーです。

PSAが高値の場合には直腸から隣接する前立腺に針を刺して、組織検査を行って診断します。

前立腺がんスクリーニングの最大の問題点は、前立腺がんをみつけることにメリットがあるか?ということです。前立腺がんはとりわけ高齢者に多いがんで、進行が遅いので、見つけて治療しても寿命に影響しない、逆に治療することで、寿命を縮めてしまう、生活の質を下げてしまう恐れもあります。そんなわけで厚生労働省は前立腺がん検診(PSA検査)を公費がん検診の対象にしていません。税金を使ってみつけるメリットがないということです。とはいえ、これだけ優秀なマーカーなので、上手に使っていくべき、と私はおもっています。定期的に測定して数値の変動をみていくことをお勧めします。前立腺がんのほとんどは進行が遅いので、多少高値でもあわてる必要はありませんが、数値が上昇していく傾向にあれば、がんがある可能性、進行している可能性あるというサインなので、専門医に相談してもらっています。精査するかどうか、そしてがんであったとしても治療するかどうかは、その時考えればいいのです。

成人T細胞白血病

成人T細胞白血病という特殊な白血病は、HTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type-1:ヒトT 細胞白血病ウイルス)の感染によって発症しますが、生涯発症率は3~7%程度で,40歳以上のキャリア約750~2,000人の中から1年に1人発症し、多くは60歳以降での発症です。わが国のHTLV-1キャリア成人数は約108万人と推計され、沖縄や九州地方でキャリア率が高いことが知られていますが,近年は、全国へのキャリアの拡散が報告されています。感染経路は,母子感染,輸血,性行為感染(主に男性から女性)ですが、妊産婦の感染スクリーニング、輸血血液のスクリーニングが行われています。キャリア母親から母乳を介しての感染があるので、陽性者からの授乳は制限します。

感染力は弱く、感染しても発症率が低い(成人してからの感染者の発症は更に低い)、発症年齢も高いということで、母子感染予防が主な対策ですが、予防予知可能ながんなので、取り上げました。

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