ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2024年08月号掲載
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当院の塩対応

高血圧の人には食事の塩分を減らすことをお勧めしております。厚生労働省は食塩の1日の摂取量を6g未満にすることを推奨していて、減塩で血圧が下がることは、動物実験でも、臨床的にも確かめられておりますが、摂取塩分と血圧が関係する理由は複雑で、実はよくわかっていないことも多いのです。そして減塩が効果的な高血圧患者さんと、塩分を減らしてもあまり血圧に変化のないタイプの方がいらっしゃいます。

塩分を減らすと血圧が下がる高血圧の方は「食塩感受性高血圧」といわれています。

このタイプの方は、腎臓でのナトリウム濃度調節が上手ではないことが原因で、血圧が上がっていると考えられています。

塩と血圧の関係については、塩分を多く摂ると、浸透圧を保つために血中水分量が増え、循環血液量が増加すると血管壁にかかる圧が高まり、血圧が上がる、と単純に説明されることが多いです。塩辛いものをたくさん食べると咽喉が乾いて水をのむ。それで血液量が増えて血圧が上がるのだ、ということです。でも摂り過ぎた塩分と水分は尿から出ていきます。塩辛いものを食べて水分をとると、すぐトイレに行きたくなりますよね。血液中の水分とナトリウムイオンの量は、腎臓で厳密にコントロールされ、そのおかげで血圧も適正に保たれているのです。

ところが食塩感受性タイプの人は、腎臓でのナトリウム排出機能に障害が生じやすく、塩分を多くとると、腎臓の交感神経の活動が促進され、それにともない塩分の排出をになう遺伝子の働きが抑制されることで血液中のナトリウム濃度が上昇し、その結果、血圧が上がってしまうと考えられます。

食塩感受性高血圧は遺伝子しやすく、加齢とともに進行し、肥満や他の生活習慣病、慢性腎臓病を伴いやすい傾向があります。他の生活習慣病との合併や肥満との相乗効果で、脳血管障害や心疾患を起こしやすいタイプですが、減塩による降圧効果が出やすいので、食生活の見直しで進行を抑え、不幸なイベントのリスクを減らすことが期待できます。

「食塩非感受性高血圧」は、塩分を減らしてもあまり血圧が下がらないタイプの高血圧です。

約4億年前、塩分と水分を体内に蓄える能力の高い生物が、海から陸に上がって生活をはじめました。私たちの祖先は、塩分、水分を体内に保つ能力の高い超エリートです。

私たちの体内ではナトリウムイオンと水分が減って循環血液量が減ると、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系というホルモンの働きで、腎臓での利尿を抑え、尿細管での水分の再吸収を促進しているのですが、その役割の中心を担っているのはアンギオテンシンⅡというホルモンです。アンギオテンシンⅡは、アルドステロンの分泌を促進し、アルドステロンは尿細管に作用してナトリウムおよび水を再吸収することで、身体の恒常性保っています。そしてアンジオテンシンⅡは、血管の緊張を上げ、交感神経系を刺激して心拍出量を増加させることにより、血圧を維持する働きもしています。

食塩非感受性高血圧の方は、このアンギオテンシンⅡの働きが強く、塩分が減ることに敏感にセンサーが働いて対応してしまうので、減塩の効果がでにくいのです。塩分水分貯留の超エリートだった祖先の能力を色濃く引き継いでいるといえます。レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系に作用する降圧剤も開発されており、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、アンジオテンシンⅡの働きを阻害して血管の収縮による血圧上昇を防ぐ効果があり、この系列のお薬が食塩非感受性高血圧方への第一選択となります。

このタイプの方で病的なホルモン異常がなく、合併症がなければ、厳格な降圧の必要はないのではとも考えられますが、タイプによらず高血圧状態が続くことによる血管ダメージはあるので、ある程度(その判断が難しいのですが)の降圧治療の継続は必要です。

『来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩の 身もこがれつつ』

百人一首の選者でもある藤原定家の歌ですが、まつほの浦とは淡路島北端の松帆浦、現在の淡路市岩屋、そして藻塩とはホンダワラなどの海藻を海水に浸して乾燥させたものを焼いて水に溶かし、煮詰めて精製した塩のことです。藻塩は海水成分に海藻由来のうまみが加わり、まろやかでコクのある塩です。製造に手間がかかり、収量も少ないので、現代では高級品です。因みにアジシオは藻塩を模して開発されました。塩の粒子をうまみ成分のグルタミン酸で化学的にコーティングした商品です。

塩には岩塩と海水を原料としたものがあり、岩塩は5億年ほど前に元々海だった場所が、海水が閉じ込められたまま陸になり、塩分が岩石化したもので、世界的には岩塩が主流です。我が国では岩塩が採れないので、太古より現在まで海水から塩を得ています。

海水から塩を得るには海水を蒸発させなくてはなりません。雨が降らない地域では陸に海水を引き込み、天日で乾燥させることで、天日塩が得られます。自然に蒸発した塩湖から採取される塩もあります。我が国は雨が多いので、天日塩を得ることは難しく、塩田に海水を引き天日で濃縮し、濃縮した海水を釜で煮つめる煎熬(せんごう)によって塩を得ていました。松帆の浦のある淡路島から山口県の沿岸部と四国、瀬戸内地域は製塩が盛んで、赤穂の天塩、伯方の塩などのブランド名にもなっています。

現代はイオン膜を使って海水を短時間で大量に濃縮することができるようになり、国内で流通している塩のほとんどはこの手法です。ソルト(salt)がサラリー(salary)の語源であるぐらい貴重品だった塩の価格は、大量生産ができるようになり大幅に下がりました。

海水の塩分濃度は3.4%で、塩分の内訳は重量比で、塩化ナトリウム 77.9 %、塩化マグネシウム 9.6 %、硫酸マグネシウム 6.1 %、硫酸カルシウム 4.0 %、塩化カリウム 2.1 % その他 0.3%です。いわゆる塩、塩化ナトリウム以外の成分もかなり含まれていることがわかります。

天日塩や塩田で濃縮した海水を煮詰めて作った塩には、塩化ナトリウムだけでなく、マグネシウムやカルシウム、カリウムの成分がそのまま含まれます。イオン膜濃縮の海水を原料にした場合には、99%以上の純度で塩化ナトリウムだけが得られます。岩塩は採取地によって異なりますが、天日塩よりも塩化ナトリウム比率がかなり高い傾向があります。

ナトリウムの過剰摂取が高血圧の原因の一つですが、カリウムやカルシウム、マグネシウムは血圧を下げる作用があることがわかっています。

カリウムイオンが細胞内に入ると、ナトリウムが細胞外に排出されます。細胞外のナトリウム濃度を下げるため、血液中の水分が減り、血圧が下がります。また、摂取したナトリウムとカリウムは腎臓でろ過された後、尿細管で必要量が血液中に再吸収されます。カリウムが多いとナトリウムの吸収を阻害するため、血中のナトリウム濃度が下がり、血圧が下がります。

カルシウムには血管収縮作用があり、カルシウムイオンが血管内皮細胞に入ると、血管が収縮して血圧を上げます。カルシウムの働きを阻害する「カルシウム拮抗薬」は、強い降圧作用を持つ高血圧治療の中心的な薬です。ではカルシウムは摂らない方がいいかというと逆で、カルシウムの摂取が減ると骨からカルシウムが溶け出て、逆に血中カルシウム濃度を上げてしまうのです。

そして、マグネシウムにはカルシウムの作用と拮抗して血管を拡張して血圧を下げる作用があり、カルシウムとマグネシウムの血中比率は一定になるように保たれています。

DASH食は、「Dietary Approaches to Stop Hypertension」の略で、米国で高血圧を防ぐ食事法として推奨されています。塩分と炭水化物を抑えて、カリウム、カルシウム、マグネシウムの多い食材と食物繊維を取る食餌療法で、同国の臨床試験ではDASH食を2ヶ月続けたところ、最高血圧が平均して11.4mmHg下がったという報告があります。

古来の製法の塩にもカリウム、カルシウム、マグネシウムは多く含まれています。

減塩するだけでなく、塩化ナトリウム99%以上の食卓塩ではなく、他のミネラル含有量の高い古来製法の塩に変えることで、より効果的に血圧を下げることが期待できます。食卓塩が刺すような塩味であるのに対し、古来製法塩は塩味がまろやかで複雑さがある、そして産地によって味わいが異なります。ただし、食卓塩よりも値段がかなり高いのが難点です。

私は常に複数の天然塩を用意していますが、調理には使いません。塩水を作ってみればわかりますが、塩を液体に溶かした場合、相当量使わないと塩味を感じません。高い塩を調理に使ってしまっては経済的ではない、そしていかに天然塩とはいえたくさん使えば塩化ナトリウム摂取量も増えます。皿に少しずつ複数の天然塩を並べて、少量を食品に付けて味比べを楽しんでいます。同じ地域のお刺身と塩が再会して、味がぴったり合ったときなど、至福の喜びです。

塩を買う時には、製法と成分表をみて、古来製法に近い作り方をしていて、カリウム、カルシウム、マグネシウムの比率を高い商品を選んでみてください。

降圧効果だけでく、食生活も豊かになります。

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