ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
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2022年02月号掲載
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新型コロナ「抗原検査」ってどうなの?

新型コロナウイルス感染の診断方法には、抗原検査とPCR検査があり、精度の高いPCR検査が主流ではありますが、検査結果が出るまでに時間がかかるのが難点で、現在検査数の急増で検査センターがひっ迫しており、検査結果が出るまで2~3日を要しており、抗原検査をご希望される患者さんが増えています。抗原検査の一番の魅力は、検査結果が出るまでが10分~15分程度と短時間であることです。

しかしながら、抗原検査はウイルス量が少ないと、実際に感染していても陰性に出てしまう「偽陰性」が多いため、感染していないことの証明には使いにくい、という大きな欠点があります。空港検疫などで、抗原迅速検査で陰性を出して入国させたものの、数日後にPCR検査で陽性が判明したという事例は珍しくありません。抗原検査の精度に関する研究報告をご紹介します。

無症状濃厚接触者へのコロナ抗原検査、検出感度は60%超

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染が確定した患者と濃厚接触した無症状および症状発現前の集団では、接触から5日後の迅速抗原検査によるSARS-CoV-2検出の感度は60%以上であり、ウイルス量のカットオフ値を感染力の代替指標とした場合の感度は85%以上に達することが、オランダ・ユトレヒト大学のEwoud Schuit氏らの調査で示された。

研究グループは、SARS-CoV-2感染者と濃厚接触し、無症状および症状発現前の集団を対象に、接触から5日後における2種類の迅速抗原検査の診断精度を評価する目的で、前向き横断研究を行った(オランダ保健・福祉・スポーツ省の助成による)。

参加者は、オランダ公衆衛生サービスの4ヵ所の検査施設で募集され、年齢16歳以上、公衆衛生サービスの検査/追跡プログラムまたはオランダ接触者追跡用携帯電話アプリケーションで同定された濃厚接触者で、登録時に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状がみられない集団であった。

主要アウトカムは、RT-PCR法による検査を参照基準としたVeritor System(Beckton Dickinson製)およびBiosensor(RocheDiagnostics製)による迅速抗原検査の診断精度(感度、特異度、陽性・陰性予測値)とした。

迅速抗原検査とRT-PCR法の結果が得られた4,274例(Veritor群2,678例、Biosensor群1,596例)が解析に含まれた。平均年齢はVeritor群45.9歳、Biosensor群40.7歳、女性がそれぞれ51.3%および47.3%で、検体採取の時点で症状の発現がみられたのは8.6%および10.1%であった。

Veritor群は、8.7%(233/2,678例)がRT-PCR検査によりSARS-CoV-2感染と確定され、このうち149例でVeritorにより抗原が検出された(感度:63.9%、95%信頼区間[CI]:57.4%~70.1)。Biosensor群は、8.3%(132/1,596例)がRT-PCR検査陽性で、このうち83例でBiosensorにより抗原が検出された(62.9%、54.0~71.1)。

検体採取時に無症状の集団における感度は、Veritor群(2,317例)が58.7%(95%CI:51.1~66.0)、Biosensor群(1,414例)は59.4%(49.2~69.1)であり、症状がみられる集団では、それぞれ84.2%(68.7~94.0、219例)および73.3%(54.1~87.7、158例)であった。

原著:Schuit E, et al. BMJ. 2021;374:n1676.

無症状者が自身の安心のために抗原検査でモニタリングする意義はありそうですが、未感染の証明として抗原検査を利用することは、問題があるとおもいます。

抗原検査による偽陽性、どのくらい検出される?

カナダ・トロント大学のJoshua S Gans氏らが調査した結果、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対しカナダ国内で使用されているすべての迅速抗原検査では、全体的に“偽陽性”の割合が非常に低く、その結果はほかの研究結果とも一致していたと示唆された。ただし、検査のタイミング(感染段階で早すぎる/遅すぎる)や検査キットの品質問題が原因で正しくない結果が報告される可能性もあることから、1つの集団から偽陽性がクラスターとして発生するには、実装ではなく製造上の問題もあるのではとも言及している。

本研究では、カナダ全土における無症候性の労働者を対象に、新型コロナの連続的スクリーニングに使用される迅速抗原検査の大規模サンプルから偽陽性結果の発生率を調査した。迅速抗原検査は、Creative Destruction Lab(CDL) RapidScreeningConsortiumにより職場での感染制御の一環として実施された。

2021年1月11日~10月13日の期間、無症候性の従業員は週2回にわたり検査を実施。

その際の出社は任意で、一部の従業員は自宅やオンライン上で検査を行った。検査結果が陽性の場合、患者は24時間以内にPCR検査を完了させるためにすぐさま医療機関を紹介された。

なお、カナダはこの期間のうち、3~6月と8~10月に2つのデルタ変異株の感染拡大に見舞われていた。

・537施設の職場で90万3,408件の迅速抗原検査が実施され、陽性は1,322件(0.15%)だった。そのうち1,103件はPCR検査の情報を有していた。また、約3分の2の症例はロット番号で追跡可能だった。

・偽陽性の結果数は462件だった(抗原検査のうちの0.05%、PCR検査を含む陽性結果の42%)。そのうちの278件(60%)は、2021年9月25日~10月8日に特定の企業(675km離れた2つの職場のみ)の従業員で報告された。

・これら2つの職場の偽陽性の結果は、すべて特定の抗原検査キットによるものだった。

原著:Gans JS, et al. JAMA. 2022 Jan 7.[Epub ahead of print]

抗原検査が陽性であれば、感染アリと判断しても良い、ただし、キットによる精度の違いもありそうなので、注意が必要です。

以上の報告も踏まえ、当院では無症状や軽症の方の抗原検査は推奨しておりません。

陰性の場合でも、新型コロナウイルスに感染していない、という証明ではなく、あくまでも「抗原検査は陰性」という診断です。そして追加でPCR検査を行い、その結果陽性であることもしばしばです。

抗原検査は簡便なキットなので、医療機関や専門の検査センターでなくても検査できるため、薬局等も検査キットが市販されており、個人でチェックも可能です。

当院にもご自身で行われた市販の抗原検査の結果を持って受診される方もいらっしゃるのですが、カナダの研究からもわかる通り、抗原検査はキットにって精度のばらつきが大きいので、市販キットで陽性であっても、それだけで新型コロナウイルス感染と診断し、保健所に連絡することはできません。

日本臨床検査薬協会(臨薬協)は11月、抗原定性検査キットの適正な使用を促進し感染制御に資することを目的として、一般消費者向けに2021年11月17日時点で製造販売承認を取得している、以下16製品について「新型コロナウイルス感染症の医療用抗原簡易キット一覧」として、公開しています。

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