ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2021年03月号掲載
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堂々と微熱でいましょう

息せき切ってたどり着いても、37.5度越えで会場に入れてもらえないなんてこともあり、いたる処で体温チェックが行われるようになった今、私も出かけるときは、こっそり冷えピタを忍ばせています。

平熱の高い人には受難の時代になってしまいましたが、我々は食事を代謝してエネルギーを得て熱を産生しており、細胞が代謝を行うのに最も適した温度が37度前後です。日本人の平均体温は1957年の東京大学の調査によると36.9度だったのが、2008年のテルモ社調査では36.1度と報告されてます。

日本人の体温が下がってしまった理由については、空調が完備されたこと、食事の欧米化、感染症が減ったことなど様々な要因が考えられますが、体温が下がると免疫力が低下し、生活習慣病の罹患率も上がり、低体温症の人が増えていることは人口減少の一因にもなっていると考えられます。

体温が生活習慣病に関連している理由として、体温が上がることで血管内皮細胞からのNO(一酸化窒素)の産生が増えることがあげられます。NOは大気汚染の原因物質なのですが、体内では重要な役割を果たしています。NOは強力な血管拡張作用をもっており、狭心症の治療薬のニトログリセリンや、ED治療薬のバイアグラ等もNOによる血管拡張が主な作用機序です。

また体温上昇により各種のヒートショック蛋白(HSP)が産生され、リンパ球の数を増やし、特にNK細胞が活性化されます。活性酸素を無毒化するHSPもあり、これらは、感染症やがんに対する免疫を高めます。またコラーゲン機能を高めるHSPもあり、美容やアンチエイジングの分野で注目されています。少ししなびたレタスやキャベツを短時間温水に浸けるとシャキッとするのもHSPの働きです。

体温上昇を病気の治療に使う試みは紀元前から行われており、19世紀にはがん患者に細菌感染による発熱を起こさせがんを消滅させる試みが行われたり、現在も高周波でがん細胞の温度を上げて治療するハイパーサーミア療法が効果を上げています。

鹿児島大学の鄭忠和先生らの提唱する「和温療法」は「室内を均等に60度に設定した遠赤外線乾式サウナ治療室で全身を15分間温めて、サウナ出浴後さらに30分間の安静保温を追加して、最後に発汗に見合う水分を補給する治療法」で、心不全治療に対して保険適用されました。

医療としての「和温療法」には専用の設備が必要ですが、日常の入浴を工夫することで体温を上昇させ、「和温効果」を得ることは可能です。鄭先生は「脱衣所や浴室をしっかり温めて、41度のバスタブに10分間浸かる」入浴法を推奨されています。41度のバスタブに10分間浸かることで、中心体温は約1度上昇し、微熱の状態になり、代謝、免疫にとってベストコンディションとなります。

シャワーだけで浴槽にお湯を張らない人が増えていますが、もともと日本人は温泉や銭湯が大好きな国民です。しっかり湯舟に入りましょう。入浴で体温UPして免疫力を高めることは、コロナ感染予防にも、きっと有効なはずです。

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