鼠径部ヘルニア(脱腸)
鼠径部ヘルニア(脱腸)は男性では、生涯に10人中3~4人、女性では100人中3~6人が発症する一般的な病気です。
立った時やお腹に力を入れた時に鼠径部の皮膚の下に腸の一部などが出てきて柔らかい膨らみとして触れます。(図1)
普通は指で押しこむと引っ込みますが、次第に大きくなり、不快感や痛みを伴ってきます。脱出した腸がもとに戻らなくなると、鼠径部のしこりが急に硬くなり痛み(多くは激痛)を伴い、押しこんでも引っ込まなくなります。この状況をヘルニア嵌頓(かんとん)といいます。嵌頓を起こす確率は0.3~ 3% / 年 程度とされていて、比較的頻度は低いといえます。
しかしながら、ヘルニア嵌頓は非常に危険な状態です。脱出した腸が壊死を起こすなど生命に関わる危険性があります。そのため、早急な対処が必要となります。
すべての成人鼠径ヘルニアは手術が必要か?
鼠径部の膨隆のみで、症状のないヘルニア(無症候性ヘルニア)や微症候性のヘルニアが嵌頓する確率は低率であることが知られています。
Fizgibbons らは男性の無症候性(微症候性)ヘルニアの嵌頓率は2年で0.27%、4年で0.55%、O’Dwyerらは1年で1.25%、 7.5年で2.5%と報告しています。
嵌頓のリスクが低いことから、無症候性 (微症候性)鼠径部ヘルニアは、直ちに手術が必要というわけではなく、十分な説明の上での注意深い経過観察も可能です。
しかしながら、疼痛や違和感などで最終的に手術介入が必要となる確率は約7割と高率です。
鼠径部ヘルニアの治療法とQOL
手術が唯一の治療法となります。 手術を希望される方は、有症状であることが多く、生活の質(QOL)が障害されています。 (図2)から鼠径ヘルニアは、体の痛みを引き起こし、日常役割機能、社会生活機能を障害することが読み取れます。そして、障害されたQOLは手術介入により改善することが出来ます。
手術の種類
(1)鼠径部切開法 (図3)
鼠径部を4-5センチほど切開して行います。腹壁の弱い部分から本来脱出しない腸管や脂肪といった臓器や組織を元に戻し人工膜(メッシュ)を使用して弱くなった腹壁を補強します。全身麻酔をかけることが難しい患者さんや腹部の下腹部手術既往があり高度の癒着が予想される場合は、鼠径部切開法が選択されます。
(2)腹腔鏡下修復術 (図4)
腹部に5mm から10mm 程度の穴を3箇所に開け腹腔内経路(TAPP)、または腹膜外経路(TEP)で修復する方法です。傷が小さいため、術後の痛みも少なく、創感染のリスクが少ないことが特徴です。
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