慢性便秘の治療と対策 ~目黒区医師会広報紙「すこやか」150号より~
概ね3日以上排便がなく、不快感を伴う場合に「便秘」と診断しますが、少量の便が頻回に出て残便感が続いている場合も、便秘と言えます。このような状態が長く続くのが「慢性便秘」です。
女性に多く、70歳以上になると急増しますが、80歳を超えると男性の方が多くなります。 大腸がんや潰瘍性大腸炎など消化管の病気によって腸管が細くなることで起こる「器質的便秘」、甲状腺機能低下症などで消化管の動きが悪くなって起こる「症候性便秘」、咳止めや膀胱の薬など消化管の動きを悪くする副作用のある薬が原因で起こる「薬剤性便秘」、これらは原因がはっきりしている便秘です。 しかし便秘は原因がはっきりしない場合が多く、食事の内容や運動不足などの生活習慣や、ストレスなどによって、消化管の動きが悪くなって起こると考えられ、「機能性便秘」と呼んでいます。腹痛や腹部不快を伴って繰り返される場合は「便秘型過敏性腸症候群」の可能性があります。 便秘の治療においては、上記のどの便秘かの診断が重要になります。下血など大腸がんや腸の炎症が疑われる場合には、大腸内視鏡検査を行って診断をつける必要がありますし、消化管の器質的な病気がないにもかかわらず便秘が続く場合は、甲状腺などの内科的な病気の可能性や、他の病気で服用している薬の副作用を疑います。 上記の原因が否定された場合は、機能性便秘としての治療を考えることになります。 便秘薬はその効き方から、
- 便を軟らかくして出しやすくする薬
- 大腸を刺激して動きを良くして排便を促す薬
- 便の出口である直腸を刺激して排便させる薬
- 便を膨張させて、かさを増すことで腸を刺激する薬
- 小腸に作用する薬
に分類されます。
便を軟らかくして出しやすくする薬
これは酸化マグネシウムの製剤で、マグラックスなどの商品名で販売されています。浸透圧を利用して便の中に水分を引き込み、便を軟らかくします。即効性はありませんが、長期に服用しても安全で、便秘治療の基本となる薬です。腎臓の悪い方はマグネシウムが蓄積して、不整脈などの副作用が出ることがあるので注意が必要です。
大腸を刺激して動きを良くして排便を促す薬
これは刺激性下剤と呼ばれ、センナ、センノシド、プルゼニド、ラキソベロンなどの商品名で販売されています。市販薬のコーラックもこの分類です。即効性がありますが、腹痛を起こしやすく、長期に服用していると効果が落ちるので、1)を服用しても出ないときに頓服で使用することをお勧めします。また便秘に効果のある漢方薬のほとんどに、大黄という生薬が配合されています。大黄も刺激性下剤なので、漢方薬だから安全とおもって漫然と飲み続けてはいけません。
便の出口である直腸を刺激して排便させる薬
これは座薬や浣腸です。レシカルボン座薬は直腸で溶けて二酸化炭素を出すことで直腸を刺激して排便を促します。グリセリン浣腸はグリセリンの体積で直腸を刺激するともに、潤滑効果もあります。刺激性下剤の一種ですが、経口剤と違い腹痛や連用による効果減弱は少ないですが、便が直腸まで到達していなければ効果がありません。
便を膨張させて、かさを増すことで腸を刺激する薬
バルコーゼ、過敏性腸症候群の治療薬ポリフル、コロネルは、便のかさを増して、水分を引き込む作用があり、長期に連用しても安全ですが、水分をたくさん摂らないと効果が出にくく、かえって便秘を悪化させることもあります。
小腸に作用する薬
古くから使われているヒマシ油は、小腸を刺激して排便を促します。最近発売されたアミティーザという薬は小腸の水分を増やし、便を大腸に押し流す、新しい作用機序の薬です。価格も高く、腹痛や吐き気の副作用もあるので、従来の便秘薬で効果が得られなかった場合に検討すべきとおもいます。 成人の大腸には1,000種以上、約106兆個の腸内細菌が棲んでいて、その重量はおよそ1.5Kg です。この腸内細菌叢が大腸の調子に大きな役割を果たしており、ビオフェルミン、ミヤBM、ラックビーなどの乳酸菌製剤も、便秘に有効です。
規則正しい生活習慣と適度な運動、そして繊維分の多い食事を摂ることは、腸管の運動を安定化させ、排便習慣を維持するのに大切な対策であることは、言うまでもありません。
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