ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2016年05月号掲載
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腫瘍マーカー検査について

全く症状がないのに、複数の腫瘍マーカー検査をご希望される患者さんに困っています。

人間ドックで受けた腫瘍マーカー検査の結果を持参され、軽微な異常値への対応を求められると、もっと困ります。

腫瘍マーカーという名前は魅惑的で、採血検査だけで隠れているがんが診断できるような錯覚を起こさせてしまいます。

しかし、単独でがんの診断ができる腫瘍マーカーは今のところなく、高い費用をかけて、たくさんの種類の腫瘍マーカーを測っただけでは、がんの早期発見には結びつきません。

腫瘍マーカーは、「がんに由来する物質」と定義されています。

具体的には、がんの細胞や、組織に存在する、分泌するたんぱく質、抗原、酵素、 ホルモンなどで、これらの血液中の濃度を測ることで、がんの存在の可能性を調べることができます。

と、書いてしまうと、やはり期待させてしまうのですが、一番大きな問題は、早期がんの段階ではこれらの物質が測定できる程度の濃度にはならないということです。

無症状の早期がんを腫瘍マーカーだけで発見することができないのはそのためです。 したがって腫瘍マーカーが陰性だからがんがない、とは全くいえないのです。

逆に腫瘍マーカーが高値であっても、がんがあるとは限りません。正常な細胞にもみられるマーカー物質もありますし、がん以外の良性の病気で高値を示すことも少なくないからです。

また一つの腫瘍マーカーと特定のがんが1対1に対応してるわけではないので、あるマーカーが高くても、それだけではがんのある臓器の特定ができないのです。

そんなにあてにならないものが、どうして医療で使われているのでしょう? 現在保険適用になっている腫瘍マーカーだけでも40種類以上もあります。

それは、何か症状があったり、他の検査で異常があった場合、それががんかどうか?という診断をするときに、補助診断として腫瘍マーカーは威力を発揮するからです。

また、すでにがんの診断がついている患者さんの治療効果をみるとき、例えば手術や化学療法の前後でマーカーの値を比較する、といった使い方はきわめて有用です。

私が日常診療でどのように腫瘍マーカーをつかっているかを簡単にご説明します。

前立腺がんのスクリーニング

「PSA」という腫瘍マーカーは数ある腫瘍マーカーの中で1番の優等生で、単独でがん検診に使える唯一の腫瘍マーカーです。

PSAのいいところは、前立腺がんに特異的であることと、数値に比例してがんの可能性が高くなることで、30ng/ml以上の場合には、ほぼ前立腺がんがみつかります。

また定期的(年に1度とか)に測定し、数値の上昇がある場合にも前立腺がんの可能性が高いので、定期測定にも意味があります。

ただし、前立腺がんは高齢者に多く、かつ進行が遅いものが多いので、早期にみつけてもあまり命にかかわらないため、測定の意義に関しては意見のわかれるところです。

肝臓がんのスクリーニング

肝臓がんのスクリーニングには「AFP」と「PIVKAーⅡ」というマーカーが有用ですが、やみくもに測っても意味がありません。

B型・C型肝炎や肝硬変といった、肝臓がんになりやすいとわかっている患者さんには定期的にAFPとPIVKAーⅡを測り、上昇がみられた場合には、CTやMRI検査を受けて早期に肝臓がんを発見することを心がけています。

また、腹部超音波検査で肝臓に腫瘍をみつけた場合も、補助診断としてAFPとPIVKAーⅡを測定しています。画像上良性腫瘍で、肝炎ウイルス陰性、そしてAFPとPIVKAーⅡが正常なら、経過観察としています。

胃がんのスクリーニング

厳密な意味での腫瘍マーカーではありませんが、胃粘膜萎縮が進むと「血清ペプシノゲン」という物質が低下します。胃粘膜萎縮は胃がんの発生母地であり、その原因はピロリ菌感染です。ピロリ菌検査とペプシノゲンを組み合わせた胃がんリスク検診は目黒区の検診にも採用されています。ただしこれは胃がんになりやすいかどうかの診断であって、胃がんを発見するためには定期的に内視鏡やバリウム検査を行わなくてはなりません。

「CEA」というマーカーは胃がんを含む消化管のがんのマーカーなのですが、残念ながら早期がんでの上昇率は高くありません。こちらは胃がん治療後の方に定期的に測定して、再発や転移の可能性をみています。

膵臓がん・胆管癌のスクリーニング

「CA19-9」と「エラスターゼ1」というマーカーが膵臓がん・胆管がんに有用です。

みぞおちの痛みが続いたり、黄疸がある場合は、肝機能、血清アミラーゼ値とあわせて、CA19-9とエラスターゼ1を測定します。

高値の場合では、当院の超音波検査で異常がなくても、必ずMRI検査を受けてもらっています。

結果異常なし、の場合が多いのですが、膵臓がん・胆管癌は早期発見が難しく、進行がんの生存率が極めて低いので、この2つのマーカーに関しては、身内に膵臓がんや胆管がん患者がいる方など、ご心配の方は、無症状でも定期測定してもいいかな、とおもっています。

大腸がんのスクリーニング

便潜血検査、これは大腸がんからの出血、すなわち、がん由来の物質をみているので、広い意味での腫瘍マーカー検査といえます。その血液ががんからなのか、痔や腸炎といった良性の病気からの出血なのかは判断できませんが、便潜血陽性=無症状であっても大腸がんのある確率が3~7%とおもってもらっていいとおもいます。便潜血陽性の場合は、大腸内視鏡検査によってがんを発見します。

「CEA」は大腸がんにおいても、残念ながら早期がんでの上昇率は高くありません。胃がん同様、がん治療後の方に定期的に測定して、再発や転移の可能性をみています。

卵巣がんのスクリーニング

腹部超音波検査を行っていると、卵巣の腫瘍はしばしば発見します。多くの場合は良性の卵巣のう腫ですが、卵巣腫瘍の良性悪性の診断は難しく、専門医でも迷うところです。また他のがんと違って卵巣は針を刺してサンプルをとって調べることができません。針を刺すと、卵巣腫瘍の中身が腹腔内にばらけてしまい、もしがんがあった場合、がん細胞をおなかの中にばらまいてしまうことになるからです。卵巣がんを疑ったばあいには、画像検査で診断がつかない場合は、切除が原則です。手術してみて良性だったということももちろんあります。

卵巣腫瘍に対しては、MRI検査でしっかり診断をつけたうえで、「CA125」という腫瘍マーカーとあわせて超音波検査で経過観察しています。

腫瘍マーカーのメリットと限界を知って、くれぐれも、人間ドックなどで高額の腫瘍マーカーてんこ盛り検診などをオプションされないように。

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