内視鏡手術、受けるべき?
内視鏡手術を勧められ、受けるべきか相談にいらっしゃる患者さんが増えています。
連日のように、内視鏡手術後に死亡した患者さんが多発している病院に関する報道が行われているので、心配になるのは当然とおもいます。
内視鏡手術には大きくわけて2つあります
口や肛門から内視鏡を入れ、内視鏡から手術器具を出し入れして、消化管の内側のがんやポリープを切除する手術と、おなかに穴をあけて、そこから腹腔鏡という内視鏡と手術器具を入れて、胃や腸、肝臓や胆のう膵臓、子宮や卵巣を切除する手術です。
口や肛門から入る手術の場合は、おなかを切るわけではないので、それほど事故は多くないのですが、 今問題になっているのは、おなかに穴を開ける腹腔鏡手術です。
腹腔鏡手術は、おなかを切って大きく開く代わりに、小さな穴から腹腔鏡でのぞきながら、細長い手術具で切ったり縫ったりするわけですから、開腹手術に比べて各段に熟練を要します。
瓶に入った帆船の飾り物をイメージしてみてください。
テーブルの上では簡単に組み立てられる帆船も、おなかの中は真っ暗ですから、瓶のまわりを黒い布で覆って、口から懐中電灯でのぞきながら、細長いピンセットを使って瓶の中で組み立てるとすれば、かなり困難で時間もかかり、もし失敗したときのやり直しもたいへんです。
腹腔鏡手術は、胆石手術と婦人科系の手術からはじまりました。
胆のうはとるだけでつなぐ必要がないので、消化器系の手術の中では比較的簡単です。子宮や卵巣も切除してしまえばよい臓器なのでやりやすのと、審美的なニーズもありました。そしてなにより子宮筋腫や卵巣嚢腫など、がん以外の良性の病気が多いので取り組みやすいのです。
それからどんどん適応が広がり、今では開腹手術でも難しい、肝臓や膵臓のがんの手術にも行われるようになっています。
肝臓は全部取ってしまうわけにはいかない臓器なので、部分的に切除しなくてはならない、上手に切らないと大量に出血する可能性があります。
また血管や胆管といった管が通っているので、切ったあとに配管をちゃんとつなぎなおさないと、術後に機能しなくなる。
上手い医師の手術の動画を見ると、神業のような手技に圧倒されます。
腹腔鏡手術は、技術格差の大きなジャンル
医療に関する情報がオープンになり、有名病院、有名医師に患者が集中しています。
患者の権利が強くなり、術前に○○先生に手術と約束して承諾書を書けば、同じ病院内でも他の医師は手を出せなくなる。
昔は、患者さんは眠っているからこっそり新人にやらせても・・・、それに開腹手術だったら、見ていて危なそうなとき指導医が簡単に助けられたのです。
というわけで、医者や施設の技術格差ができてしまう。
できる医者はどんどん経験を積んで、さらにうまくなり、そうでない医者は上達の機会も少ない。
たとえば、心臓外科では、専門医になる症例数が得られない医者が増えていることが問題になっています。
腹腔鏡手術は、技術格差の大きなジャンルなのです。
芸大や体育大は、専門技能に優れた学生を入学させていますが、恐ろしいことに医学部に入学する人は英語や数学の試験で点数が良かっただけ、医師国家試験も選択式のペーパーテストです。腹腔鏡手術の実技試験で選ばれた人材ではないのです。
また、地方の大学病院やがんセンターなどは、その地域の中核病院としてどの科も最先端の治療ができる、という使命があります。
十分なトレーニングを積んでいないスタッフが、難しい治療に臨まなくてはならないということが起こっています。
今回の腹腔鏡手術後死亡多発事件は、起こるべくして起こった、といえます。
リカバーできる体制があるかどうかがポイント
腹腔鏡手術を受ける患者さんは、 その病院でどのくらいその手術をやっているか? その科にスター医師以外のスタッフがちゃんといるか? 麻酔科や放射線科、病理診断科、同じジャンルの内科など外科を支える他科がしっかりしているか? をチェックするようにお話しています。
術者には神業が求められますが、それを支えるスタッフ、他科があって安全な腹腔鏡手術が実現できるのです。
上手の手から水が漏れることもあります。
それをリカバーできる体制があるかどうかがポイントだとおもいます。
また、開腹手術ではなく、腹腔鏡を選ぶメリットをちゃんと説明してもらえるかどうかも大切です。
腹腔鏡手術のメリット?病院の症例数が増えるから。では困ります。
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