尿酸値、下げなくちゃだめ?
痛風発作で受診する患者さんが増えています。
痛風は、関節内に析出した尿酸塩が起こす関節炎で、高尿酸血症が持続した結果起こりますが、特に夏は脱水で尿酸が濃縮されるので、痛風発作も起こりやすくなります。
一方、区民検診で高尿酸血症と診断される方は多くいますが、その皆さんが痛風発作を起こすわけではありません。
尿酸値を下げる薬を飲んだ方がいいのでしょうか?というご質問が多い所以です。
高尿酸血症とは?
年齢、性別を問わず、血清尿酸値が7.0mg/dlを越える場合を、高尿酸血症と定義しています。(日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン) 高尿酸血症は、痛風だけでなく、腎障害、尿路結石の原因となり、高血圧、メタボリックシンドロームとの関連も指摘されています。
圧倒的に男性の方が多く、30才以上の男性の30%以上が高尿酸血症であると推定されます。
どうして尿酸値が上がるの?
尿酸は食品から摂取したプリン体と、体内にあるプリン体が代謝されて1日約600g生成されます。
体内には常に1g程度の尿酸がプールされており、この状態を保つために尿酸は体外に排出されています。
この、生成と排出のバランスが崩れることによって、尿酸値が上がります。(図1)
高尿酸血症には、尿酸産生過剰型(10%)、排泄低下型(60%)、その両方が混在する型(25%)があります。(図2)
痛風
贅沢病といわれる痛風ですが、高尿酸血症の多くが排泄低下型であることを考えると、贅沢な食生活だけが、痛風の原因とは言えません。
尿酸値が7.0mg/dlを越えると痛風発作が起きやすく、高尿酸血症の期間が長いほど、痛風発作が起きやすいことがわかっています。
ただし、痛風発作時の尿酸値が高くないことも多く、また高尿酸血症の治療によって痛風発作が起こってしまうこともあり、痛風診療を難しくしている要因にもなっています。
高尿酸血症と尿路結石
尿酸結石は尿路結石の原因の一つであり、尿量が低下して尿が濃縮され、尿が酸性化すると、尿酸結石に尿路結石ができやすくなります。
高尿酸血症によって尿酸結石ができやすくなるとは一概には言えませんが、一因であることは確かです。
困ったことに、尿酸排泄促進薬を服用することで、尿酸結石による尿路結石ができやすくなります。
慢性腎臓病、高血圧、メタボリックシンドロームと高尿酸血症
慢性腎臓病については、高尿酸血症は促進因子ですが、慢性腎臓病は複数の要因で起こるので、高尿酸血症が必ず腎障害を起こすわけではなく、また高尿酸血症を治療しても、腎機能低下を改善するとは言えません。
高尿酸血症の人は、高血圧、メタボリックシンドロームを合併することが多いのですが、高尿酸血症が高血圧やメタボの原因ではありません。
高尿酸血症は治療しなくてはだめ?
痛風についても尿酸値の治療は?逆に発作を起こす?尿路結石についても?治療で石ができてしまう? 腎機能低下との関連はあるけど尿酸値だけが原因ではなく、高血圧、メタボについても尿酸は原因ではない、となれば、尿酸値を下げる必要があるのか?と疑問におもわれるのは当然です。
尿酸値を下げることによる長期予後、すなわち、尿酸値を下げた人は下げない人より長生きする、心臓病や脳血管障害などの致死的な病気にならない、人工透析にならないといったデータもないのです。
基本的には、無症状の高尿酸血症は治療しなくてもよい、というのが当院の考えです。
ただし、痛風発作はその名の通り風があたっても痛い、というつらい病気です。
尿路結石もつらい痛みです。
高血圧、メタボの人は将来的に腎機能低下をきたしやすく、その要因はひとつでも減らしておいた方がよい。
というわけで、当院では、日本痛風・核酸代謝学会ガイドラインに従い、
- 痛風発作を起こしたことのある方は、血清尿酸値7.0mg/dl以上で治療
- 腎障害や高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームなどを合併している方は、血清尿酸値8.0mg/dl以上で治療
- 痛風発作、合併症のない方は、血清尿酸値9.0mg/dl以上で治療
- 治療目標は血清尿酸値6.0mg/dl、ただし痛風発作を起こしているときは尿酸値を下げる治療はしない
を原則としています。
高尿酸血症の治療法
高尿酸血症のタイプに応じての治療が基本です。
尿酸産生過剰型には、尿酸の生成を抑える薬を、排泄低下型には、尿酸の排泄を促進する薬を使うのが原則です。
ただし、このタイプを知るには、血清尿酸値だけではなく、尿中への尿酸排泄量を調べる必要がありますが、この検査が結構面倒で、費用もかかる。
また尿酸排泄促進薬は、尿酸結石による尿路結石を引き起こす副作用があり、それを抑えるために尿をアルカリ化する薬を併用しなくてならず、尿をアルカリ化する薬は錠数が多く、1日に飲む回数も多い。
タイプ別による治療の必要性を力説する専門医もいますが、 そもそも、尿酸値を下げるメリット自体がそれほど大きくないのですから、検査費をかけてタイプ分けをすることや、尿酸結石のリスクを上げ、たくさん薬を飲むデメリットのある尿酸排泄薬を使うことは、当院ではあまり積極的に行っていません。
いい加減な医療を目指す当院としては、尿酸生成抑制薬を使ってみて、尿酸値が6mg/dlに下がれば、まずはそれでよし、と考えています。
尿酸値と食生活
尿酸は食品から摂取したプリン体と、体内にあるプリン体が代謝されて1日約600g生成されますが、食品から生成されるのは100gです。
尿酸値を高くする食品はメタボや肥満、他の生活習慣病の因子とも重なりますので、食事療法は重要です。
プリン体が多い食品(レバー、イカ、豚肉、ビール)を減らすことはよく言われていますが、プリン体は細胞の核酸に由来し、プリン体の多いものは栄養価が高く、体にとって必要な成分が多く含まれており、うま味成分も多いので、単純に減らせばよいというものではありません。プリン体以上に尿酸値への影響が大きいのは糖分です。ジュースや菓子類など、果糖、ショ糖の多い食品はカロリーだけが高いので、ぜひとも減らしましょう。
痛風、尿路結石を予防するためには、水分をしっかりとることが必要です。
アルコール飲料も水分は多いのですが、アルコールを薄めるために体内の水分が使われてしまうので、より多くの水分摂取が必要になります。
お酒をのんだら、別に水分もしっかり摂らなくてはなりません。
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