ひもんや俳壇平成二十八年度
2017年1月号
平成二十八年度
ひもんや俳壇賞
黒澤三主寿 選
※「ミモザ会」は特別作品として選外とさせていただきました
大賞
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待ちかねて波へ突進海開千葉ゆり子海水浴場開きである。ながながとひと夏の安全を祈る行事が終わると見るや、子供たちはわれ先にと波へ突進した。突進という言葉がいきいきとその情景を伝えている。句に勢いがあり共感を得られる佳句である。
次席
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春めくや田に人影とトラクター仲島 信広々と拡がる田圃が息を吹きかえしたのである。長かった冬の間、何もなかったところに今、人影とトラクターがある。荒越しを始めたのか。まさに春めく景色である。
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採りもせず盗まれもせず柿たわゝ吉田 新子時代は変わった。昔はどの家にも柿の木の一、二本はあってよろこんで食べたものである。柿泥棒も居た。採りもせず、盗まれもせずと反対語を使い、飽食の時代を巧みに詠んだ句となった。
ひもんや診療所・院長賞
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初嵐女性都知事の誕生す渡辺 幸江昨年七月末に行われた都知事選。圧倒的勝利で史上初の女性都知事が誕生した。まもなくやってくる野分を予感させるような「初嵐」という季語がまさにぴったりの面白い句である。
秀作
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子供の日孫のタッチに力負け富所 敬子
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おでん鍋まず大根にのびる箸鈴木恵美子
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駅前の往き交ふ人のみなマスク川部 義明
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一人居は気遣ひもなく着ぶくれて藤田 静枝
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飛び石のくぼみ〳〵の薄氷譲原 節子
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山積みの捨てよか迷ふ古日記市川須美子
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汗の子を汗の母より受け取りぬ石井 昭子
佳作
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面影の父かも知れぬ秋の蝶滝口 智子
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遠き日の祖母との暮らし蕎麦の花畑山 則子
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大夕立去りて土の香立ちのぼり戸上 和
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爺々と呼ばれうれしや初電話安藤 虎雄
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紅梅の香りやさしき路地に住む小針カツ子
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着信も留守電もなし秋の暮廣門登喜子
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椀だねは花麩さわらび祝膳鈴木 ゆり
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豆撒きもして賑はひの旅の宿中村 常子
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空に海写したるごと鰯雲苅野 玲子
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ワンテンポ遅れる父の踊りやう安達久美子
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テレビ消し除夜の鐘聴くひとりかな苅野 節子