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2012年8月号掲載記事

知ってほしい「膵臓(すいぞう)がん」の話

山本周五郎の「赤ひげ診療譚」に、不治の病として「大機里爾癌」が紹介されています。大機里爾とは膵臓のことで、小石川療養所の入院患者が治療の手立て無く衰弱していく様子が描かれています。

多くのがんが、診断と治療の進歩によって克服されている中で、残念なことに「膵臓がん」が難病であることは、江戸時代からあまり変わっていないのです。

発見しにくい「膵臓(すいぞう)がん」

膵臓は胃の裏側に位置し、血糖をコントロールするホルモン(インスリン、グルカゴン)の分泌と、糖、蛋白、脂肪を分解する消化液(アミラーゼ、リパーゼ、多数の蛋白分解酵素)を分泌する重要な臓器です。(図)

胃の裏側なので、お腹の触診や超音波検査ではわかりにくく、検診や一般診療で、膵臓がんを早期に発見することが困難です。

また膵臓がんの初期にはほとんど症状がなく、進行すると腹痛、腰痛、背部痛がみられることもありますが、胃炎や十二指腸潰瘍や、ぎっくり腰などの腰痛と似たような症状なので、市販薬の胃薬や痛み止めを飲んで我慢してしまう患者さんが多くいらっしゃいます。

膵頭部(十二指腸に接する部分)のがんの場合には、胆汁の流れを阻害して、皮膚が黄色くなる「黄疸」がみられることがありますが、すべての膵臓がんで黄疸がでるわけではありません。

膵臓がんによって内分泌機能が低下し、糖尿病が悪化したり、急に体重が減少することがありますが、糖尿病が悪化する原因は膵臓がんだけではないですし、体重減少も然りです。

膵臓が見えにくい場所あることと、特有の症状がなく、早期の段階では症状が出にくいことが、膵臓がんが発見しにくい理由です。

治療が難しい「膵臓がん」

「膵臓がん」は早期がんの段階で発見しにくことに加えて、膵臓という臓器の特徴と位置から、治療を困難にしています。

多くの臓器は膜に覆われているので、がんが出来ても臓器の外まで広がるには時間がかかりますが、膵臓はお腹の中でむき出しの状態で脂肪組織の中に埋まっているたいへんもろい臓器なので、周囲にがんが広がるのが早く、手術でがんを取り出すのが難しい。

さらに肝臓、胆のう、十二指腸と細い管でつながっているので、手術で膵臓だけを取り出せばよい、というわけにはいかないのです。

早期発見が難しく、手術も困難であるため、膵臓がんの5年生存率(診断されてから、5年間生存する率)は10%以下で、すべてのがんの中でも際立って予後が悪いのです。(表)

「膵臓がん」になる確率とリスクファクター

国立がん研究センターの統計によると、わが国で1年間に新しく膵臓がんにかかる人は約24,800人(2005年データ)、1年間に膵臓がんで亡くなる人は約26,800人(2009年データ)と発表されています。年次推移では、男女ともに罹患率も死亡率も増加傾向にあります。

生涯で膵臓がんにかかるリスク(2005年データ)を見ると、男性で54人に1人(臓器別罹患数第8位)、女性では52人に1人(臓器別罹患数第8位)。膵臓がんで死亡するリスク(2009年データ)は、男性で58人に1人(臓器別死亡数第5位)、女性では68人に1人(臓器別死亡数第4位)です。

年代別の罹患率をみると、男女ともに40歳代から徐々に増え出し、50歳代から急増傾向にあり、高齢になるほど上昇しています。

胃がんとピロリ菌、肝がんと肝炎ウイルスといった感染症や、肺がんと喫煙といった生活習慣が、各種のがんのリスクを高めていることが解明されており、予防や早期診断に役立っていますが、膵臓がんの原因因子で決定的なものはみつかっていません。

各種疫学調査の結果から、「膵臓がん」には以下のリスクファクターが考えられています。

  • 家族に膵臓がんになった人がいる(13倍)
  • 糖尿病である(1.8〜2.1倍)
  • 肥満(BMI30以上)である(1.8倍)
  • 慢性膵炎である(4〜8倍)
  • 遺伝性膵炎である(53倍)
  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(※膵臓の良性腫瘍)がある(0.95〜1.1%が癌化)
  • 喫煙習慣がある(2〜3倍)

膵臓がんの検査

腹部超音波検査が簡便な方法ですが、膵臓が見えにくい位置にあることから、確実な診断ができるとは限りません。

血中膵酵素(アミラーゼ、エラスターゼ1)の上昇は腫瘍径が2cm以下の小膵癌でみられることが多いのですが、膵臓がんに特異的ではありません。CA19-9などの腫瘍マーカーは進行癌で上昇することが多いのですが、早期がんの発見にはあまり有用ではありません。 

腹部CT検査は、超音波で見えにくい場所もスキャンできるので、高い精度が期待できますが、小さな膵臓がんは正常組織とコントラストがつきにくいことがあり、確実に早期がんを発見できるというものではありません。

腹部MRI検査で膵管の描出ができるようになったため、癌の位置把握には役立ちますが、確実な早期発見は保証できません。

ひとつの検査で確実な早期診断は難しいですが、これらの検査を組み合わせることで、診断の精度を上げることが期待できます。

膵臓がんの治療

手術療法が第一選択で、「がんが2センチ以下で、膵臓の中にとどまっていて、リンパ節転移がない」鬼では、5年生存率57%。「2センチ以上でも膵臓の中にとどまっていて、リンパ節転移が周囲だけ」の挟の場合、5年生存率は44%です。手術ができるのはこの鬼、挟までで、この段階で発見される膵臓がんは全体の15%ぐらいしかありません。

これ以上進行した場合は、化学療法、放射線療法になりますが、III期24%、IVa期11%、IVb期3%ときわめて低い5年生存率になってしまいます。

手術できない膵臓がんは悲しい状況ですが、高度先進医療である「重粒子治療」の効果が報告されており、注目されています。

なんとかして「膵臓がん」を早期にみつけるために

難物の膵臓がんですが、「2センチ以内で膵臓の中にとどまっている状態」で発見できれば、希望が持てます。

  1. 家族が膵臓になった方、糖尿病の方、肥満の方、慢性膵炎の方、そして喫煙されている方は、40歳をすぎたら膵臓がんを意識してください。
  2. 腹痛や背部痛、腰痛がある場合は、空腹の状態で(胃が膨らんでいると膵臓が見えにくい)来院し、腹部超音波検査を受けてください。
  3. 皮膚、特に白目が黄色い、便が白っぽい場合は、黄疸の可能性がありますので、必ず受診してください。 
  4. 急に体重が減った場合も、ご相談ください。
  5. 糖尿病の方は、薬をもらうだけでなく、こまめに検査を受けて、糖尿病の状態をチェックしてください。

当院は「膵臓がんを早期に発見する」ことを重点課題として、専門医、専門医療機関と連携して診療にあたっております。

ご心配な方は、ぜひご相談ください。