ひもんやだよりWEB版
ひもんやだよりWEB版
ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2023年11月号掲載
!

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の検査と治療、その前に予防を!

骨粗鬆症について

骨粗鬆症は、骨がもろく骨折しやすい状態になる病気です。骨粗鬆症学会の2015年度の調査では、わが国の女性980万人、男性300万人が骨粗鬆症であり、高齢者が要介護になる原因第一位(厚生労働省「国民生活基礎調査」2016年)である関節疾患、骨折・転倒などの「運動器障害」の背景には骨粗鬆症があります。また高齢者では気が付かないうちに椎体骨を骨折している方も少なくありません。骨粗鬆症で脊椎骨が圧迫され潰れてしまい(圧迫骨折)、急に身長が低下してしまいます。25歳のときの身長よりも4cm以上低くなっている人では、脊椎圧迫骨折がある可能性が高いという報告があります。

私たちの骨はずっと同じ状態ではなく、日々古い骨が壊されて、新しい骨が作られる「新陳代謝」を行っています。骨の代謝では、古くなった骨を溶かす「破骨細胞」と、新しい骨を生成する「骨芽細胞」がサイクルをくり返し、一定の形を密度を保ちながら、一日に約1グラムずつ新しい骨に入れ替えています。ちなみに1本の骨が新しい骨に入れ替わるには、約3〜4ヶ月かかります。全身にある206本はすべて約3年新しい骨に入れ替わるといわれています。

骨芽細胞は、建物でいうと鉄筋にあたる「コラーゲン」をつくり出し、そこにたんぱく質の一種である「オステオカルシン」を塗ります。カルシウムを付着させるためです。そこに、血液中から運ばれてきた「カルシウム」が付着し、新しい骨ができあがります。破骨細胞は、酸や酵素を放出し、古い骨のカルシウムやコラーゲンを溶かします。溶けたカルシウムは、新しい骨の材料や、血液に取り込まれてカルシウム源になります。破骨細胞が過剰に働かないようにコントロールしているのが、女性ホルモン「エストロゲン」です。

骨の丈夫さを表す指標である「骨量(骨塩量)」は20歳頃に最大骨量に達し、その後ゆるやかに減少します。若いころは、破骨細胞と骨芽細胞の活動は、ほとんど同じ量が行われているため、骨の強度は保たれていますが、高齢になると、破骨細胞の量が増えてくるため、骨が弱くなったり、もろくなったりします。特に女性は男性に比べて骨量が少ないことに加えて、閉経をむかえると女性ホルモンが少なくなるため、破骨細胞の抑制がきかなくなり、骨や関節の障害が起こりやすくなります。

骨粗鬆症の進行には個人差があり、体質的、遺伝的に進行しやすい人、しにくい人がいます。また、喫煙や飲酒、運動不足や偏食(極端なダイエット)などの生活習慣や、ステロイド剤の服用などホルモン療法なども、骨粗鬆症を促進することがわかっています。

骨粗鬆症の検査と診断

骨密度の測定方法には、超音波法、DXA法、RA法があります。

DXA法(2重エネルギーX線吸収測定法)

骨密度を測る方法のなかで特に精度が高いのがDXA法です。骨と骨以外の組織(筋肉や脂肪など)にそれぞれ微量の放射線をあてて、その通過量を比較することで、骨密度を算出します。痛みなどの苦痛はありません。

当院の「目黒区の骨粗しょう検診」は前腕のDXA法で行っています。 

超音波法

かかとの骨に超音波をあてて、簡易的に骨密度を測定する方法です。放射線は使わないため被曝がなく、健康診断でよく使われます。ただし、他の検査と比べて精度は高くはないので、骨密度が低値と考えられるときには先に説明したDXA法などで骨密度を確認する必要があります。

当院では区民検診受診の女性で、目黒区骨粗しょう症検診対象年齢以外の方には超音波法の骨密度測定を行っています。

RA法(Radiographic absorptiometry)

骨とアルミニウム板を同じレントゲン写真内に映し出し、それらの濃淡を比べることで骨密度を割り出す検査です。当院では精度の高いDXA法の機器導入に伴い、RA法は廃止しました。


骨密度を測定し、測定時の年齢においてどの程度骨量が保たれているかを計算することで、骨粗鬆症を診断します。

成人の一般的な骨密度は約1.0g/cmですが、骨粗鬆症の診断には、YAM(Young Adult Mean)値という数値を使います。YAM値とは、20~44歳の健康な女性の骨密度を100%としたとき、測定者の骨密度が何%であるかを比較した数値で、70%未満の場合に骨粗しょう症と判断されます。

骨粗鬆症検診ではYAM値と危険因子によって図のような基準で診断、指導を行います。

目黒区骨粗しょう症検診では、問診によって過去の骨折・家族歴・喫煙・過度の飲酒・ステロイド服用歴・早期閉経・運動不足・極端な食事制限(ダイエット)に1項目でも該当する方は「危険因子あり」と判定します。

骨代謝マーカー(血液・尿検査)

骨粗鬆症の診断や治療効果判定には、骨の新陳代謝のバランスを調べる骨代謝マーカーも併用されます。

骨代謝マーカーのうち、古くなった骨を壊す作用(骨吸収)の活発さを調べる検査を「骨吸収マーカー」、骨を新しく作る作用(骨形成)の活発さを調べる検査を「骨形成マーカー」と呼びます。骨吸収マーカーは骨粗しょう症の治療薬を選ぶときによく使われます。骨吸収マーカーが高値であれば骨が壊されるスピードが早いと考えられるため、骨吸収を抑えるタイプの薬を使います。代表的な骨吸収マーカーは、TRACP-5b(血液)、DPD(尿)、NTX(尿、血液)、CTX(尿、血液)です。一方、骨形成マーカーは、骨形成をうながす効果がある副甲状腺ホルモン製剤の効果を調べるのによく使われます。使用開始前と後で骨形成マーカーの値を比較して評価します。主な骨形成マーカーは、P1NP(血液)、BAP(血液)です。

骨粗鬆症の治療

骨粗鬆症治療薬は、骨吸収を抑制する「骨吸収抑制薬」と、骨形成を促進する「骨形成促進薬」、その他に分類できます。

椎体骨折抑制効果から「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」では、骨吸収抑制薬はBP窒素含有ビスホスホネート(アレンドロネート、リセドロネート、ミノドロネート、イバンドロネート、ゾレドロネート)、抗RANKL抗体(デノスマブ)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)。骨形成促進薬は副甲状腺ホルモン(テリパラチド)、抗スクレロスチン抗体(ロモソズマブ)。そのほかの薬剤として、活性型ビタミンD3(エルデカルシトール)が推奨されており、骨折リスクに応じて薬剤を使い分けています。

骨折リスクが低い例

SERM(女性のみ)あるいはエルデカルシトール

骨折リスクが高い例

BPあるいはデノスマブ

骨折リスクがきわめて高い例

テリパラチドあるいはロモソズマブ

一番大切なのは、骨粗鬆症の予防!

加齢により骨量が減り、骨密度が低下していくことは避けられません。大切なのは、若いうちに骨を蓄えておくことですが、高齢者では減少する骨の量をいかに少なくするか、そして骨折のリスクをいかに下げるかが予防のポイントです。

予防ポイント1「睡眠」

夜間眠っているあいだに「骨芽細胞」が進み、昼間は「破骨細胞」が行われます。睡眠障害や不眠症などがあると、骨生成に影響が出ます。睡眠時間と骨折リスクに相関があるという報告もあります。しっかり睡眠をとって、骨を蓄えましょう。

予防ポイント2「日光浴」

活性型ビタミンDは骨の材料となるカルシウムの吸収を助けたり、カルシウム摂取が不足しているときには、尿の中からカルシウムを再吸収するように働きます。また、骨へのカルシウムの沈着を調整し、骨形成を促します。皮下脂肪には、ビタミンDのもととなるコレステロールの一種が含まれています。このコレステロールに紫外線が当たることで化学反応が起こり、ビタミンDがつくられます。肌でつくられるビタミンDの量は、食物を摂取して得られる量よりも多く、極端に紫外線を避ける生活はビタミンD不足の原因となります。過度の紫外線は皮膚がんを誘発する可能性がありますが、日本人は統計的にみても皮膚がんのリスクよりも、骨粗鬆症による骨折、それに伴う寝たきりや認知症の進行の危険度が高いで、冬であれば1時間程度、夏なら日陰で30分ほど屋外に出ることを心がけましょう。

予防ポイント3「運動」

運動をするとその刺激を受けて骨にカルシウムが沈着しやすくなり、血流がよくなることで骨をつくる骨芽細胞の働きが活発になります。特に重力に逆らうタテ方向の刺激を与えることで、骨密度が高まります。歩行すると重力と反対方向の刺激が踵から下肢骨、骨盤、椎骨に伝わりますので、いちばん簡単で効果的なタテ運動です。日光を浴びて歩くことで一石二鳥の効果が得られます。また骨と違い筋肉は、何歳になっても運動刺激によって増やすことができます。筋肉を付けることで、骨折の原因となる転倒のリスクを減らし、筋肉が骨の弱さをカバーして骨折を予防することができます。

予防ポイント4「食事」

骨にはカルシウム、とよく言われていますが、カルシウムの1日の推奨量は18~29歳男性で800mg、30~49歳男性で650mg、50歳以上の男性で700mg、18歳以上の女性で650mg、カルシウムの多い食品は、牛乳、小魚、海藻、大豆および大豆製品、緑黄色野菜などです。例えば牛乳コップ1杯(200ml)には、約220mgのカルシウムが含まれていて、日本人の1日に必要な量のおよそ1/3にあたります。

ただし、カルシウムはたくさん摂っても腸管から吸収できる量は限られています。カルシウムの多い食事を心がける以上に大切なのは、たんぱく質をしっかり摂ることです。骨はたんぱく質(コラーゲン)にカルシウムが沈着して出来ています。骨のしなやかさはコラーゲン、硬さはカルシウムが担っています。折れにくいしなやかな骨を作るためには、コラーゲンの原料となるたんぱく質(アミノ酸)を十分に摂取しなくてはなりません。

もともと日本人の食生活はでんぷん・糖質過多で、たんぱく質が足りません。(おにぎり、うどんやラーメンを想像してみてください)高齢者ほど、肉、魚、卵、そして大豆製品を積極的に食べてください。穀物も外皮に近い部分にはたんぱく質が多く含まれていますので、玄米や精白していない小麦を使った麺類やパン、パスタをお勧めします。どうしてもたんぱく質の多い食事は苦手という方は、プロテイン製剤で補うことをお勧めします。

ページ先頭へ