ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2019年03月号掲載
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膵臓がん最新情報

膵臓がんに関する新しい知見をご紹介いたします。

1つ目は日本人を対象とした、食事習慣との関連に関するコホート研究で、果物の摂取は膵がんのリスクを下げ、意外なことに野菜はリスクを上げるというもの。この結果に対して研究グループは「果物に含まれるビタミンなどの抗酸化成分が、膵がんのリスク低下に関係しているのではないか」と考察。一方で、野菜摂取にリスク上昇との関連が認められた点については、「喫煙者でリスクの上昇が顕著になることから、野菜とたばこに含まれる成分との相互作用の可能性が考えられるが、明確な理由は分からない」とコメントしている。その上で「今回の研究は、日本人が対象のものでは過去最大規模だが、症例数は必ずしも多くはない。日本人を含むアジア人における疫学研究は少ないため、さらなる研究の蓄積が必要だ」と今後の課題を示しています。

2つ目は新しい腫瘍マーカーについて。膵臓がんは超音波検査などの画像検査では早期発見が難しく、代表的な腫瘍マーカーであるCA19-9も感度が高くないため検診やスクリーニング検査での有効性は示されておりません。今回米ヴァン・アンデル研究所は、膵臓がん細胞の一群から分泌される「sTRA」と呼ばれる糖鎖抗原に注目し、CA-19-9とsTRAの腫瘍マーカーを併用すると、CA-19-9単独に比べて膵臓がんの検出率が向上することが報告されました。実用化に期待しています。

膵がんリスクは果物で低下、野菜で上昇

国内コホート研究9万人超を解析

国立がん研究センターなどの研究グループは、健康寿命の延伸を目的に実施した長期コホート研究JPHCの約9万人のデータに基づき、果物および野菜の摂取と膵がん罹患との関連を検討。その結果、膵がんの罹患リスクは果物摂取により低下し、意外にも野菜の摂取で上昇することが示されたと、Int J Cancer(2018年9月26日オンライン版)に発表した。

果物摂取で26%低下、野菜摂取で30%上昇

果物や野菜の摂取によるがんの予防効果については、幾つかのがんで可能性が示されている。しかし、膵がんに関しては、これまでに一定の研究結果が得られていない。そこで研究グループは、日本人の生活習慣病予防と健康寿命延伸を目的に国内で実施されているJPHCのデータを用いて、果物・野菜の摂取量と膵がんの罹患リスクとの関連を検討した。

解析対象は、JPHCに参加した45~74歳の男女9万185人。138食品を含む食品摂取頻度調査を基に、果物(17品目)・野菜(29品目)の摂取量によって対象者を4群に分け、最少群を対照としてその他の群のがん罹患リスクを調べた。解析では、性、年齢、地域、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病既往、膵がん家族歴、魚摂取量、肉摂取量、運動習慣、コーヒー摂取、エネルギー摂取量を補正した。

16.9年間(中央値)の追跡期間中に、577人が膵がんと診断された。全果物摂取量の最多群では、最少群に比べて膵がんの罹患リスクが26%低かった〔ハザード比(HR)0.74、95%CI 0.57~0.95、図〕。柑橘類(みかん、み かん以外の柑橘類、オレンジジュース)に限定した場合にも、ほぼ同様のリスク低下が認められた。果物摂取と膵がん罹患リスク低下との関連は、非喫煙者でより明瞭だった(同 0.67、0.47~0.97、傾向性P= 0.034)。

一方、全野菜摂取の最多群では、最少群に比べて膵がんの罹患リスクが30%高かった(同 1.30、1.01~1.66)。

ただ、アブラナ科野菜や緑黄色野菜など特定の種類に限定した場合、膵がん罹患リスクとの有意な関連は認められなかった。また、全野菜摂取と膵がん罹患リスク上昇との関連は、喫煙者において有意だったが(同 1.49、1.01~2.19、傾向性P=0.044)、非喫 煙者では有意な関連は示されなかった。

膵臓がんの新たな腫瘍マーカーを発見~従来検査との併用で検出率向上

従来の腫瘍マーカー検査に、新たに別のマーカー検査を併用すると、膵臓がんの検出率が向上し、高リスク患者の早期発見に有用な可能性があることが、米ヴァン・アンデル研究所のBrian Haab氏らによる研究で明らかに なった。研究の詳細は「Clinical Cancer Research」1月7日オンライン版に掲載された。

膵臓がんの多くは初期症状を伴わないため診断が難しく、発見されたときには既に進行した状態であるケースも多い。そのため、5年生存率はわずか8.5%にとどまるとされる。膵臓がんの代表的な腫瘍マーカーには糖鎖抗原のCA-19-9が挙げられ、血液検査で血中の量を測定する。しかし、この検査は膵臓がんの確定診断や経過観察の際に行われるもので、検診には用いられていない。また、この腫瘍マーカー単独では、膵臓がんの約40%しか検出できないとされている。

Haab氏らの研究チームは今回、CA-19-9とは異なる膵臓がん細胞の一群から分泌される「sTRA」と呼ばれる糖鎖抗原に着目。細胞株や患者由来の異種移植片、原発腫瘍におけるsTRAおよびCA-19-9の発現量や分泌を調べた。 その結果、CA-19-9を産生、分泌しない腫瘍細胞からsTRAが産生されることが確認された。また、CA-19-9とsTRAの腫瘍マーカーを併用すると、CA-19-9単独に比べて膵臓がんの検出率が向上することが分かった。これらを併用した場合の膵臓がんの検出率は70%で、偽陽性率は5%未満であったという。

Haab氏らは「これら2つの腫瘍マーカーを併用すれば、単独の検査では見落とされてしまう可能性がある膵臓がんを検出できる確率が高まる」と説明している。そのため、同氏は「これらを組み合わせることで、がんが広がる前の段階で高リスク患者の膵臓がんを発見し、早期に治療できるようになるのでは」との見方を示している。

同氏らによれば、この新しい検査法で、がんの高い検出率を達成できれば、特に膵臓がんリスクの高い患者の検診と早期介入に有用なアプローチとなる可能性がある。なお、高リスク患者には、膵臓がんの家族歴がある患者、膵嚢胞や慢性膵炎の既往がある患者、中年期以降に2型糖尿病と診断された患者などが含まれるという。

Haab氏は「互いを補完する方法でこれらの検査を用いれば、医師は早い段階で膵臓がんを発見でき、患者の生存率の著しい改善につながるものと信じている」と期待を示している。Haab氏らの研究チームは、これらの検査の併用による有効性を確認するため、さらに研究を実施していくとしている。

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