ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2018年06月号掲載
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女かピロリか?
胃がんリスク検診を受けましょう

厚生労働省の推奨する胃がん検診の項目に入っていない「胃がんリスク層別化検査(ABC分類)」を私が推奨しているのはなぜか?という趣旨で、昨日某雑誌の取材を受けました。

現在厚生労働省の推奨する胃がん検診はX線バリウム検診と、2014年度から追加された内視鏡検診で、記者の指摘のとおり「胃がんリスク層別化検査」は推奨できないとされています。

がん検診の評価基準は、その検診を受けた集団と受けなかった集団で、受けた集団の方が有意差をもって当該がんの死亡率が低い、ということが証明されていること、です。

「胃がんリスク層別化検査」は胃がんの原因であるピロリ菌感染とそれによる胃粘膜萎縮の度合いを採血検査で調べることで、胃がんになりやすいか、なりにくいかを判定する検査で、胃がんをみつける検査(=胃がん検診)ではありません。なりやすいかどうかの判定だけなので、「胃がんリスク層別化検査」の実施で、胃がん死亡が低下するとはいえないのです。もちろん長い目でみれば、胃がんになりやすいと判定された人がしっかり胃がん検診を受けて続けてくれることで、胃がん死亡は減少すると考えられ、我々もそれを目指しています。

というわけで、厚労省の研究班には「胃がんリスク層別化検査」をX線検査や内視鏡検査と同列に扱わないで欲しい、とお願いし続けているのですが、推奨できない胃がん検診の烙印を押され続けています。

「胃がんリスク層別化検査」は胃がんになりやすいかを判定する検査ですが、逆に「胃がんになりにくい」ということもわかる検査です。

広島大学の調査では、3,160例の胃がんのうち、ピロリ菌未感染と判断できるのは1%未満の21例しかありませんでした。これは「胃がんリスク層別化検査」に加え、更に厳密な検査をした上での結果なのですが、ピロリ菌未感染の胃がんは、全乳がんのうちの男性乳がんの比率とほぼ同じです。

ピロリ菌は幼少時に胃に感染し定着するので、成人になってから一度「胃がんリスク層別化検査」を受けることで、生涯において胃がんになりやすいか、なりにくいかがわかるのです。

男性乳がんが皆無ではないにもかかわらず、乳がん検診を受けるのは女性だけで、これに異を唱える人はいません。もちろん厚労省も40歳以上の女性に対する2年に1回のマンモグラフィー検診を推奨しています。

「胃がんリスク層別化検査」を行わずに、全員に胃がん検診を実施するのは、男性にも乳がん検診を受けさせているのと同じです。

もちろん、「胃がんリスク層別化検査」で100%ピロリ菌感染歴が診断できるわけではなく、偽陰性や偽陽性が存在しますので、女か男かと同列には扱えません。また胃がん検診では胃がん以外の病気、食道がんや胃潰瘍、十二指腸潰瘍がみつかることもありますので、乳がん検診と同じに扱うことはできませんが、胃潰瘍、十二指腸潰瘍もピロリ菌感染に由来する疾患ですし、食道がんは胃がんよりも圧倒的に少なく、喫煙歴、飲酒歴との関連が大きく、男女差が5倍以上(男>女)です。例えばピロリ菌未感染(胃がん低リスク)かつ、喫煙歴のない女性(食道がん低リスク)の人が、胃がん検診を受けるメリットはかなり少ない。メリットが少ないだけでなく、放射線被ばく、バリウムの誤嚥、時間的経済的損失、苦痛といったデメリットがあります。

記者さんは「私も当然のように毎年バリウム検査受けてました」とのこと。「胃がんリスク層別化検査」はお受けになったことがない、ということなので、ぜひ一度お受けになることをお勧めし、

A群(ピロリ菌未感染の胃がん低リスク群)であれば、次回の検診では、担当医にそのデータを見せて「先生なら、バリウム呑まれますか?」と聞いてみてください、と申し上げました。ちなみに同業者でバリウム検査を受けるという話を、ここ10年以上聞いたことがありません。

検診はパッケージになっているので、この項目は受けたくない、とは言いにくい。定食のおしんこはいらない、というようにはいかない。バリウム検査はコースメニューのメインディッシュ、お断りするのはシェフに失礼?

でもそんな遠慮はいらないのです。費用が割引にならないとしても、明らかにデメリットがメリットを上回ってしまう検診項目は拒否すべきです。

記事で「# Me Too」の方が増えることを願っています。

取材はしっかり録音を採られましたが、記者は男性でした。

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