ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2017年03月号掲載
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春からのAGA対策

脱毛症には男性型と女性型があります。

男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)は前頭部から頭頂部にみられる脱毛で、男性ホルモン(テストステロン)が5αリダクターゼという変換酵素の働きで、ジヒドロテストステロン(DHT)というホルモンに変換され、このホルモンが毛乳頭細胞にある受容体に結合することにより、発毛が抑制されて起こる、といわれています。DHTはテストステロンの10倍の強さで受容体に結合する強力なホルモンで、加齢によるテストステロンの減少を補うためにDHA産生が高まり、AGAが進行すると考えられています。またAGAは遺伝の影響も大きいと考えられていますが、AGA遺伝子はまだ発見されていません。

女性型脱毛症は全体の髪の毛が薄くなる、細くなるといったボリュームダウンの傾向を示します。原因については女性ホルモンの影響、加齢、栄養不足、ストレスなどが考えられていますが、定説はありません。 もちろん女性が男性型脱毛症になることもあり、男性も女性型を伴うこともあるので、脱毛症は男女とも男性型、女性型が混合した状態であるといえます。

病気の症状として脱毛症がみられる場合を除き、一般的に脱毛症は身体の健康には影響がないものですが、個人差はあるものの、精神的なモチベーションに影響を及ぼすことも少なくないので、気になる方には早めの治療をおすすめしています。

治療法には大きく分けて、飲み薬(サプリメントを含む)、塗り薬(シャンプー等を含む)、照射療法、手術があります。

欧米人にくらべて日本人は髪の毛に対する関心が高く、いかがわしい療法も多数横行しているので、情報を整理したいとおもいます。

表1は日本皮膚科学会による、最新(2010年)のAGA治療法の推奨度です。

A:行うよう強く勧められる

B:行うよう勧められる

C1:行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない

C2:根拠がないので勧められない

D:行わないよう勧められる

学会では推奨度に基づき、図2のような治療方針を提案しています。

ただし、学会の評価は2010年時点で論文化されている、日本国内における標準的治療に限られており、新薬のザガーロや、日本未認可のミノキシジル内服などは含まれていません。

以下、日本皮膚科学会の推奨する治療方を中心に、それ以外についても考察してみたいとおもいます。

飲み薬(サプリメントを含む)

「フィナステリド」はプロペシアの商品名で処方されるAGA治療薬で、前述したテストステロンをDHTに変換する5αリダクターゼの働きを阻害することで、脱毛を抑えます。作用機序的もはっきりしており、AGA治療の基本となる療法です。脱毛を抑えることで、相対的に髪の毛を増やす治療なので、完全に脱毛してしまってからは効果がありません。早めの治療が効果的です。発売10年を経過して価格の安いジェネリックも販売されており、当院ではジェネリックをメインに処方しています。服用をやめると徐々に元に戻ってしまうこと、女性には適応がないことが、この治療の弱点です。副作用としては精力減退がいわれていますが、実際にはそれほどではありません。服用中は前立腺がん検診(PSA検査)が偽陰性(がんがあるのに、陰性とでる)になる可能性があるので、検診を受けるときには注意が必要です。

「デュタステリド」はザガーロの商品名で昨年発売された新薬です。作用機序はフィナステリドとほぼ同じでで、効果、副作用も同様ですが、フィナステリドよりも効果が出るのが早いといわれています。またフィナステリドで効果不十分の場合に、デュタステリドの切り替えることで効果が得られたという報告もあります。プロペシアよりも価格が高く、ジェネリックも出ていないので、当院ではフィナステリドの効果に満足できなかった場合のセカンドラインの治療としてご提案しています。

「ミノキシジル内服薬(ミノタブ)」はお問い合わせの多い薬で、外用薬リアップの主成分であるミノキシジルの飲み薬です。国内未承認で、当院では扱っていません。ミノキシジルはもともと循環器の薬として開発されたもので、頭皮の血行を改善させることで、発毛を促します。女性も服用可能です。効果は高いのですが副作用も強く、血圧低下によるふらつき、全身の発赤や掻痒感といった皮膚症状、そして内服薬の場合は頭髪だけでなく全身の体毛が濃くなってしまいます。服用量のさじ加減が難しいので、どうしても試してみたい場合には、毛髪専門クリニックで処方してもらうことをお願いしています。ネット通販からの購入は自己判断による過剰服用や、偽薬の可能性もあり危険です。

「ノコギリヤシ」は男性の泌尿器症状の改善で注目されているサプリメントです。フィナステリドやデュタステリドと同じように、5αリダクターゼの働きを阻害する効能があるといわれています。フィナステリドやデュタステリドも前立腺肥大の治療薬として開発された薬であることから、ノコギリヤシにも脱毛抑制の効果があるとおもわれます。

「ビオチン」はタンパク合成を促進するビタミンであることから、皮膚(コラーゲン、ケラチン)代謝を改善させることが期待できるため、頭髪にも良い影響があると考えます。脱毛症よりは白髪の改善の効果が宣伝されています。

「亜鉛」はビオチンと共同して皮膚代謝の改善、また単独で5αリダクターゼの働きを阻害する働きがあるといわれています。

「L‐リジン」は必須アミノ酸の1つで、皮膚代謝の改善させて、発毛を促進すると考えられています。 「ビオチン」、「亜鉛」、「L‐リジン」は毛髪だけでなく、全身のたんぱく質代謝に必要な栄養素であり、食品(魚介類、肉類、乳製品など)から摂取するのが基本です。重大な副作用もないので、不足が考えられる場合には補助療法としてサプリメントを利用してもいいかもしれません。

塗り薬(シャンプー等を含む)

発毛に効果のあるシャンプーはありません。頭皮のふけや汚れ、脂肪が多いと発毛を妨げるという説にも根拠はありませんし、洗髪で皮脂を洗い流しすぎると頭皮が乾燥しますし、今生えている髪の水分が失われて抜けやすくなることもあります。

ただし頭皮をある程度清潔にしておかないと、外用薬が毛根にとどきにくいので、洗髪は塗り薬の効果を高める補助療法、とお考えください。洗髪直後の頭皮は過敏になっているので、洗髪直後の塗布を禁じている外用薬もあるので注意が必要です。

「ミノキシジル(外用)」はリアップの商品名で販売されており、頭皮の血行を良くすることで発毛効果が得られます。作用機序もはっきりしており、学会も推奨している外用薬です。男女とも使えます。濃度が濃いものほど効果も高いのですが、副作用も強くなります。頭皮が炎症を起こし痛み、かゆみが出ることはしばしばあります。動機や呼吸困難を起こす方もいますので、塗り薬とはいえ、安易に使用してはいけません。特に循環器系のお薬を飲んでいる方は注意が必要です。薬局の薬剤師さんとよく相談して使用することをお勧めします。

「塩酸カルプロニウム」はカロヤンの商品名で販売されている他、びまん性脱毛症と円形脱毛症の医療用医薬品であるフロジンの成分も塩酸カルプロニウムです。塩酸カルプロニウムも頭皮の血行を改善させることで、発毛を促進します。AGA治療薬としては推奨度が低いのですが、びまん性脱毛症の保険適用があることから、女性型の脱毛症に効果があると考えています。フロジンは当院でも保険診療で処方しています。頭皮の炎症、痛み、かゆみの副作用は、個人差はありますがミノキシジルよりも少ない印象です。

「ポリリン酸ナトリウム」は最近注目されている発毛促進成分です。元々は食品の保存料や歯磨き粉のホワイトニング成分として使われてきた物質です。皮膚の表面にはFGF(線維芽細胞増殖因子、Fibroblast Growth Factor)を受け取る 受容体があり、この受容体にFGFが結びつくと、線維芽細胞が活発に動くように命令を出し、コラーゲンやエラスチンといったタンパクが合成されます。FGFには23種類があり、毛母細胞にあるFGF-7が「発毛命令」を伝えて毛髪の成長を促します。しかし、FGFは寿命が約4~5時間と短いので、「発毛命令」が毛乳頭へ届かないことで、毛髪が減ることがわかってきました。ポリリン酸はFGF-7と結合し安定化させることで寿命を伸ばし、効果的に発毛を促進します。ポリリン酸ナトリウムは皮膚への刺激が少なく、副作用はほとんどありません。男女とも使え、ミノキシジルや塩酸カルプロニウムとの併用も可能です。当院ではポリリン酸ナトリウムを高濃度に配合したUCPヘアトニックを販売しています。

「アデノシン」はFGF-7の増殖を促す物質で、アデノバイタルやアデノゲンの商品名でアデノシンを含有する商品が販売されています。作用機序から効果は十分に期待できます。アデノシンはカフェインで効果がブロックされてしまうので、コーヒーをたくさん飲む方にはおすすめできません。 「FGF-7」そのものを配合した外用薬もありますが、FGF-7の精製が難しいためたいへん高価で一般的ではありません。

照射療法

「赤色LED照射療法」は、新しくはじまった治療法で、頭皮に特殊なLED光を当てることで、毛母細胞を活性化する治療法です。フィナステリド内服やミノキシジル外用との併用で効果があるようです。

手術療法

「自家植毛術」は自分の後頭部などの毛髪を一本づつ毛根ごと採取し、前頭部や頭頂部の髪の毛の抜けた部分の頭皮に細かい穴を開け、田植えのように自分の髪の毛を植えていく手術です。熟練した医師が一本一本手作業で行うので、時間と費用がかかります。1本あたり約500円で、3000本程度移植するのが標準です。毛根が定着すれば、抜けてもまた生えてきます。植毛した髪の毛が抜けるとがっかりしますが、同じところから再度発毛してきた時の喜びは格別、とのことです。高額ですが、フィナステリドやミノキシジルが無効の進んでしまったAGAに対する最後の切り札です。女性型のびまん性脱毛には通常実施できません。

「人工毛植毛術」は人工の髪を植える手術ですが、こちらは定着することなく、抜け落ちればそれで終わりです。頭皮を痛めるだけの治療なのでお勧めできません。

当院のAGA型の治療方針

当院のAGA型の治療方針は「フィナステリド内服に、ポリリン酸ナトリウム配合のUCPヘアトニックの併用」を基本として、より強い効果を求める場合はリアップも併用してもらうことをお勧めしております。

女性型の脱毛症に対しては、UCPヘアトニックを基本に、毛髪の特に薄い部分に対してフロジンを塗布することをお勧めしています。

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