ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2014年09月号掲載
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胃がんを遠ざける食生活

胃がんは、現在で最も頻度の高いがんであり、毎年12万人が罹患し5万人が亡くなっている。

死亡率・罹患率の地域差や民族差、時代的な変化、そして、国際間の移住による変化などから、胃がんの発生リスクを規定する食習慣などの環境要因があることが考えられる。

これまでの研究などから科学的証拠が揃っている胃がんのリスク・予防要因と胃がんを遠ざけるための生活習慣について考える。

ヘリコバクター・ピロリ菌(H.p.)感染

国際がん研究機関(IARC)は、H.p.による慢性炎症が胃がんの原因であると1994年に判定した。その後も数多くのエビデンスが示され、両者の因果関係は揺るぎない。

国立がん研究センターの症例対照研究においても、H.p.感染が認められなかったグループと比較して、感染の証拠が示されたグループの胃がんリスクは、約10倍であった。そして、胃がん患者の99%に感染の証拠が示された。

すなわち、感染がなければ胃がんになる確率は極めて低いことが示唆される。一方で、胃がんに罹患していない対照でも90%に感染の証拠が示されたことから、感染者のなかで胃がんになるのは一部であるとも言える。従って、以下で記す要因と胃がんとの関連の多くは、H.p.感染を前提とした胃がん罹患リスクを修飾する要因と考えられる。一方で、一部は、H.p.の持続感染を成立させるリスクを修飾していることも示唆される。

喫煙

喫煙との関連は重要で、近年のIARCによる評価でも、確実に胃がんのリスクを高めると判定されている。

18の疫学研究の解析では、日本人喫煙者の非喫煙者に対する相対リスクは1.6倍と推計され、男性の胃がんの30%、女性の3%はたばこ対策で予防可能と推計される。

塩分・塩蔵食品

世界24 ヶ国や国内5地域で行われた地域相関研究では、塩分の摂取量が多い地域程、胃がん死亡率が高い。日本、特に東北地方に高い、中南米や東ヨーロッパ地域に高い、時代的推移と共に全世界的に減少している、米国移民に比べてブラジル移民では比較的高いなどの特徴は、塩分や塩蔵品の摂取量との関連により、多くは説明可能と思われる。

国立がん研究センターの研究では、塩分摂取量の増加に伴う胃がんリスクの増加が、男性において明確に認められた。また、塩辛・練りウニや塩蔵魚卵の摂取頻度 との関連は、男女ともに明確に認められた。

野菜・果物

野菜・果物の胃がん予防効果に関しては、近年の研究から示される関連は、無いか、有っても強くはない。現状においては、胃がん予防の可能性はあるものの更なるエビデンスの蓄積が求められる。国立がん研究センターの研究や、広島・長崎の被爆者を対象と研究では、強くはないもののある程度の予防的関連は認められている。

緑茶など

緑茶の中にはカテキンなどの多くの抗酸化物質が含まれていることが実験室からも報告されており、注目すべき胃がん予防因子であるが、近年の日本の研究では関連がないとする報告が多い。しかしながら、6つの日本人を対象とした研究を統合して解析を行った結果では、男性ではやはり関連が認められなかったが、女性では統計学的に有意な負の関連が認められた。すなわち、その予防効果は大きくはないが、喫煙率が低い女性では、緑茶の飲用量が多ければ多いほど胃がんになりにくいという確かなエビデン スが得られている。一方、コーヒーや紅茶、あるいは、飲酒については、多くの研究で検討されているが、殆どの研究で関連が認められていない。ただし、飲酒については、近位部の胃がんのリスク要因となる。

胃がんを遠ざける生活習慣

現状で胃がんのリスクを軽減させるためには、果物や野菜を不足しないようにして、塩分、特に、塩蔵品・高塩分食品の摂取をなるべく控えることが推奨される。

その量的な提言としては、胃がん予防に限らずに総合的な健康のために、果物・野菜は1日400 グラム以上が望ましい。また塩分は、日本における現実的な実行可能性を考慮して、食塩1日10 グラム未満が推奨されるが、なるべく少なくすることが望まれる。さらに、胃がんに限らず、あらゆる病気の予防のためにも、喫煙者は禁煙することが前提である。

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