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2011年6月号掲載記事

塩が死を早めます!

〜意識して、塩のダイエットをしましょう〜

塩を使った保存食は世界中にあり、清めの塩や、敵に塩を送るという諺があるくらい、古来より塩は大切なものとされてきました。

塩分は人間が生きていくには不可欠な物質でありますが、塩分の摂り過ぎは、高血圧、脳卒中、腎臓病を悪化させ、胃がんになる危険度をあげることもわかっています。

からだに必要な塩が、なぜ悪者に?

人間のからだの60%は水分ですが、その水分は、細胞の外にある細胞外液と、細胞の中にある細胞内液に分かれています。

ナトリウムは主に細胞外液に存在し、細胞内液にはカリウムが多いのが特徴です。人間が生命を維持するためには、細胞内の水分の状態を一定に保つ必要があり、これを調節しているのが、ナトリウム(Na)と塩素(Cl)、すなわち食塩(NaCl)です。

血液(血漿)中の塩分が増えると、血液は水分をとりいれます。すると血液の量が増えて血圧が上がります。塩分が極端に減ると、血管内の水分が減り、脱水、血圧低下、ショックなどが起こり、死に至る場合もあります。

太古の昔、生物が、海から陸上に上がって生活するようになった過程で、海水の無い環境で生きる能力、即ち、塩分を体内に貯留する能力を進化させてきました。塩分をからだに蓄え、塩分不足の環境で生きられた生物だけが、陸上で生活できるようになったのです。

ぐっと時代が下って、人類の歴史をみても、塩は直接摂取するだけなく、冷蔵の無い時代の重要な食品保存の手段でした。しかし塩の精製方法が進歩して、ふんだんに塩を摂取できるようになったのは最近のことで、日本においても海水から塩を作っていた時代には、塩は貴重品でした。敵に塩を送るという諺は、上杉謙信が、内陸の領地で塩不足に苦しんでいた武田信玄に塩を送ったという故事に由来するもので、500年前には塩は不足していたのです。

我々は、太古からごく最近までの長い間の塩不足を生き抜いた、からだに塩分を貯留する能力にすぐれたエリートの子孫といえます。

そんな蓄塩エリートの子孫であることが、現代の人間に災いをもたらしています。

塩が簡単に手に入るようになり、必要以上に塩分を摂取しているが、からだは相変わらず塩を体内に溜め込んでしまっている、即ち、塩の肥満状態になっているのです。

塩分過多な環境に、我々のからだの塩分排出能が追いつかず、高血圧、脳卒中、腎臓病を引き起こしてしまっているのです。

一日の塩分摂取量 6gを

日本高血圧学会では、成人の一日の塩分摂取量1日6gを目標に減塩することを推奨しています。ちなみに、日本人の塩分摂取量の平均は、1日約11gです。

少なくとも、高血圧の患者さんは1日6gにすべきです。これは薬をのむことと同じくらい大切な治療です。

また血圧が高くない人でも、将来高血圧、脳卒中、腎臓病にならないために、意識して塩分を控えることをお勧めします。

意識しなければ、日常の食事から、塩分はどんどん体内に入ってきて、貯留されてしまいます。特に加工食品は塩分が多いので注意が必要です。

極端な方法ですが、当院では、台所に塩を置かないことをすすめています。

ポテトチップス1袋の塩分は平均は0.34グラムに対し、食パン2枚は、平均で0.96グラムで、ポテトチップス1袋の3倍に近い塩分量です。食品に溶け込んでしまった塩分よりも、表面についている塩分のほうが、少ない量で、塩気を感じるのです。

調理のときは塩を使わず、どうしても必要なら食べるときに塩をふりかける。

こうすることで、少ない塩分量で塩味を味わえ、かつ塩分の摂取量も把握できます。

また果物、野菜、海草などのカリウムを多く含む食材を摂り、塩分の排泄を促しましょう。