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2011年4月号掲載記事

乳酸菌と乳酸菌製剤

人の腸内には100種100兆個以上といわれる細菌が棲んでいます。

その中には、人に良い影響を与える善玉菌や、有害な悪玉菌もおり、それらのバランスによって腸内環境がつくられています。健康な腸内では、善玉菌が悪玉菌の増殖を抑えています。悪玉菌が優勢の腸内環境は、下痢や便秘といった腹部症状を起こす原因となります。

善玉菌と悪玉菌のバランスは食事、加齢、ストレスなどで変化する為、善玉菌である乳酸菌を、ヨーグルトなどの食品や、乳酸菌製剤によって摂取するなどして、善玉菌が優勢の腸内環境に整えておくことが大切です。

乳酸菌とは?

乳酸菌とは、炭水化物の糖などを使って乳酸を産生する細菌の総称です。

腸内にすむ細菌のバランスを整えることにより、健康に役立っています。

肉食中心の生活を続けると体内でアンモニアが増加し、腸内環境もアルカリ性に傾いてしまいます。アルカリ性の腸内環境は悪玉菌が増加しやすい環境であり、悪玉菌が増加すると善玉菌と悪玉菌の腸内バランスが乱れ、下痢や便秘になりやすくなります。

乳酸菌は、善玉菌であり、アルカリ性に傾いた腸内環境を乳酸菌から産生される乳酸によって酸性の状態に改善させます。この働きによって、乳酸菌がより増加しやすい環境を作り、乳酸菌などの善玉菌が腸内で悪玉菌よりも優勢の環境となり、便秘や下痢といった腹部症状を改善させます。

さらに最近の研究によって、免疫機能を向上させる作用や、中性脂肪・血中コレステロール値を低下させる作用といった働きも知られてきました。

代表的な乳酸菌の種類と働き、製剤名

整腸剤(ビオフェルミン、ラックビー、ビオスリー、ミヤBMなど)は、乳酸菌から作られた薬です。

ビフィズス菌(ビオフェルミン錠、ラックビー)

偏性嫌気性菌(酸素があると生育できない細菌)で、大腸に多く生息しています。

下痢時などの腸内環境が乱れた場合や加齢によって、著しく減少することが認められています。

乳酸、酢酸を産生し、悪玉菌の増殖を抑制します。

フェーカリス菌(ビオフェルミン散、ビオスリー)

通性嫌気性菌(酸素の有無に関わらず生育する菌)で、小腸に多く生息しています。

増殖性に優れ、素早く腸内環境を整えます。

酪酸菌(ミヤBM、ビオスリー)

芽胞を形成する菌で、熱・酸・アルカリに対しての抵抗性があります。

偏性嫌気性菌で、大腸に多く生息しています。

酪酸、酢酸といった短鎖脂肪酸を産生し、pHを酸性に傾け、悪玉菌の働きを抑制します。

下痢にも便秘にも乳酸菌が効く理由

相反する症状である下痢・便秘は、共に腸内環境のバランスの乱れによって起きているので、その改善に乳酸菌は効果を発揮します。

下痢をすると、腸の過剰な運動によって善玉菌が糞便中に排出されてしまい。悪玉菌が優勢な環境となってしまいます。下痢をすると、ビフィズス菌が顕著に減少するということも分かっています。 バランスの乱れた腸内環境を乳酸菌が改善させることにより、下痢は改善します。

便秘は、腸の運動低下や糞便の含水量の低下によって排便ができない症状なので、腸内で菌が腐敗し、悪玉菌が増殖しやすくなってしまいます。

便秘時に、乳酸菌は、3つの働きをします。

  1. 乳酸菌が産生する乳酸や酢酸などの酸によって運動低下している腸管を刺激します。
  2. 腸管で乳酸菌が水分を吸着し、糞便中の含水量を増加させます。
  3. 水分を吸着した乳酸菌が食物繊維の働きをし、排便を促します。

処方された整腸剤 ○○○Rは普通の整腸剤とどう違うのか?

処方された整腸剤に、ビオフェルミンRなど、○○○Rという整腸剤を目にする機会があるかと思います。そのような時には、抗生物質が一緒に処方されていませんか?

Rとは、Resistance(抵抗、耐性)という意味で、○○○Rと付いた整腸剤は、抗生物質への耐性を付与した整腸剤ということから耐性乳酸菌と呼ばれます。

抗生物質は体内にある細菌を死滅させるため、良い菌、悪い菌の両方を殺してしまい、腸内のバランスが乱れ、 下痢や便秘が起きてしまいます。それを防ぐために、○○○Rとついた整腸剤は、処方されています。

耐性乳酸菌は、抗生物質の投与下においても生存し、抗生物質によって減少した良い菌を補い、整腸効果を発揮します。

たとえば、ピロリ菌を除菌する際には、2種類の抗生物質を用いるため、下痢を起こしやすくなりますが、耐性乳酸菌の併用により、副作用の下痢を軽減できます。