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2007年7月号掲載記事

更年期

更年期は、どの女性にも起こる、人生の大きな転換期です。この時期、卵巣から分泌されるホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量が激減します。エストロゲンには、皮膚、乳房などに弾力性、みずみずしさを与える働き、コレステロール値を正常化する働き、骨粗しょう症、アルツハイマー病を予防する働きなど、さまざまな機能があり、エストロゲンが不足する更年期には、身体上、精神上に多様なトラブルが起こりやすくなるのです。

更年期によく見られる、様々な症状の要因として、次の3つが上げられます。

  1. 卵巣機能の低下
  2. 本人を取り巻く環境(仕事の変化、夫の老齢化、子どもの進学・就職・結婚など、嫁姑の関係、肉親の介護や死別、将来への不安、近所づきあいなど)
  3. 本人の生まれつきの気質・体質

これらの要因が、複雑にからみあって、様々な症状を引き起こします。のぼせ、ほてり、手足の冷え、腰痛、関節痛、頭痛、不安感、興奮、冷感、しびれ感、頻尿、排尿障害、腹痛、食欲不振、睡眠障害、疲れやすい等、各種トラブルが挙げられます。こうしたトラブルが、日常生活に支障を来すほど強くなった状態を、「更年期障害」と呼びます。

更年期障害の診察

更年期障害を心配して来られた方にとって大切なのは、悩んでいる症状が、本当に更年期障害によるものであるかどうかを確認することです。更年期障害だと思っていたら、他の病気による症状であったということも少なくないですし、更年期障害に他の病気が合併していることもあります。うつ状態、あるいはうつ病などのように、放置しておくと危険なものもあります。

問診

  • 今までにかかった病気、現在の病気と飲んでいる薬
  • どんな症状がいつごろから起こったか、どの程度の強さか。
  • 月経の様子は?最後に月経があったのはいつか。
  • 最近の心理状態、仕事、家族や友人、近所の人との気持ちの通い方
  • 睡眠の状態、食生活、日頃の運動

当院では、問診の際、Fig.1のようなことを伺います。更年期障害かな、と思ったら、いくつかあてはまるものがあるか、やってみるのもよいでしょう。

検査

全身の診察をした後に、症状に応じて検査を実施していきます。

血液検査

血液中のホルモン値検査:E2(卵巣から出るエストロゲン)とFSH(下垂体から出る卵胞刺激ホルモン)を測定することで、ホルモン的に更年期の可能性があるかどうかを調べます。

貧血:貧血による倦怠感を更年期障害と思ったり、貧血が更年期障害を増悪させてしまったりすることがあります。

高脂血症(コレステロールなど):高脂血症は更年期以降に悪化します。

肝機能検査:肝炎、肝機能障害、肝硬変による症状は、更年期障害の症状と似ていることがあります。

甲状腺ホルモン値検査:甲状腺機能の異常の場合、更年期障害とよく似た症状があらわれることがあります。また、甲状腺の病気は女性に多いので、必要に応じて測定します。

尿検査

尿糖や、血尿、蛋白尿を調べ、糖尿病や腎障害の可能性があれば、更に詳しい検査をします。

腹部超音波検査

子宮、卵巣の異常を画像的に診断するほか、肝臓や膵臓、胆のう、腎臓に異常がないか、腹水がたまっていないか、などを調べます。

骨量検査(骨粗しょう症の検査)

骨粗しょう症は閉経以降に急激に進行します。更年期障害を訴える患者さんには受けていただきたい検査です。

治療

更年期障害のさまざまな症状は、ホルモン補充療法(保険診療でできます)をはじめとするいろいろな療法で、改善することができます。

ホルモン補充療法

当院では、専門医の指導のもと、皮膚に貼るテープ剤によるホルモン補充療法を行っています。テープ剤にしみこませた女性ホルモンを皮膚からゆっくり吸収させることで、更年期症状を軽減します。骨粗鬆症の改善にも効果があります。

副作用として、連続使用で乳房痛、性器出血をみることもあるので注意が必要です。また、ホルモン補充療法は乳がん、子宮体がんのリスクを高めるという報告もありますので、定期的な検診を受けることが重要です。

自律神経調整剤、抗不安薬

更年期の神経症状に対して、有効な場合が多いので、患者さんにあったものを選んで処方します。

漢方薬

更年期症状に対して、漢方治療の有効性が認められています。当院でも患者さんにあったものを選んで処方します。

適切に対処すれば、更年期障害は、改善できるものです。「更年期障害だろうから仕方がない・・・」と我慢してしまうと、その症状の陰に隠れた重大な病気を見逃してしまうこともあります。少しでも心配な症状があったら、医師の診察を受けることをお勧めします。また、区などの定期検診を忘れずに受けることも、とても大切です。