ひもんや俳壇

ひもんや俳壇 2012

1月号

平成23年度 ひもんや俳壇賞

  • 地震(なゐ)の地に顔上げて咲く鉄線花
    苅野 節子
  • 千年に一度という大地震大津波は、日本列島を震憾させ、被災地の惨状は目を覆うばかりである。それに追討ちをかけたのが原発の放射能であった。その地に面てを上げて咲く鉄線花は、まさに復興へ力強く立ち上がる人々の姿と重なり、この年を象徴する今年の一句と思う。

次席

  • ニューヨークからも母の日忘れずに
    佐々木 弘
  • もともとアメリカに始まった母の日ではあるが、誰もが日本の母の日を想う。この句は予想外のニューヨークとはっきり言って成功している。電話であろうか。贈物かも知れない。母の日を忘れずにいてくれたのが何より嬉しい。

次席

  • 秋茄子となりて主役に躍り出る
    苅野 玲子
  • 句に勢いがあって若々しい。平凡な夏野菜が、秋となって俄然脚光を浴びたのである。「躍り出る」でこの句は決まった。

ひもんや診療所・院長賞

  • あそぼうよまつぼっくりをキックして
    もりおかゆうこ
  • 「あそぼうよ」のよびかけに、思わず体が弾むような、リズミカルでたのしく、そして言葉も整った俳句です。ゆうこさんは小学一年生。まつぼっくりをキックして、将来は「なでしこジャパン」入り?かな。

秀作

  • 母の背を越えし中一夏休み
    富所 敬子
  • 花氷届かぬ愛に触るるごと
    戸田 徳子
  • 実石榴やあの頃どこも子だくさん
    柴崎 英子
  • 短日や昨日につづく探し物
    廣門登喜子
  • かまきりに売られた喧嘩箒取る
    安達久美子

佳作

  • 春茜目を伏せし間に消えゆける
    川喜田秀雄
  • 三月の霜降る音の闇夜かな
    原  良
  • 街灯の明りに雪の円舞かな
    半澤 篤
  • ゆうらりと地蔵に揺れておみなへし
    山本 三郎
  • 虫の音に迎へられ入る美術館
    安藤 虎雄
  • 元旦の誓ひそろそろほころびて
    小澤たん子
  • 福島の球児頑張れ雲の峰
    半澤ハツ子
  • この街のオアシスなりし森茂る
    武井 康子
  • 春一番押され入りたる喫茶店
    飯田久美子
  • いい日ねと声のとびくる秋日和
    久保田光江
  • 椿落つ蕾のままでありしかな
    森崎 富貴
  • 春惜しむ余生いよいよ忙しき
    吉田 新子
  • 葉桜や人まばらなる目黒川
    川部 義明
  • 濁流を浮きつ沈みつ白椿
    宇都宮義長
  • 書の道に卒業はなし筆をとる
    仲島 信
  • 冬さうび主なき庭の守り人か
    山形 定房
  • 哲学の径を余さず散紅葉
    渡辺 幸江
  • 楪やゆづるものなく年老いて
    千葉百合子
  • 笙の音にひかれて見入る初神楽
    浅田 智子
  • 十薬や病明るく告げし人
    清水 悠子
  • 学校に紅白の幕水温む
    畑山 則子

2月号

一般投句

  • 雨やみて月白々と冬に入る
    川喜田秀雄
  • 年の瀬や手向けの花の交差点
    富所 敬子
  • 南天の実の赤いあの家ですよ
    原  良
  • 白紙にはらり分身木の葉髪
    戸田 徳子

向原喜楽会・不動会

  • お祓ひのきょろきょろ余所見七五三
    安藤 虎雄
  • セピア色我にもありし七五三
    小澤孝ん子
  • 窓よりの風の身に入む頃となる
    半澤ハツ子
  • 夫婦とてほどよく離れ柿二つ
    柴崎 英子
  • 柿たわゝ茅葺屋根のそば処
    武井 康子
  • 紅さして髪置の子のおちょぼ口
    飯田久美子
  • 次郎柿剥くや好みし母のこと
    久保田光江
  • 門前の法語煙らせ落葉焚
    笹島美和子
  • みどり児を話し相手に小六月
    廣門登喜子
  • 啄みてまた啄みて小鳥去る
    森崎 富貴
  • 貰ひたる十年日記書く夜長
    川部 義明
  • 快方に向かふ病状冬日和
    佐々木 弘
  • 干大根みな潮風に曲がりをり
    宇都宮義長
  • 小春日や紬の映える鎌倉路
    仲島  信
  • 結局は抱かれて撮られ七五三
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 屈強な芒の群も刈られけり
    苅野 玲子
  • 暗がりに茶の花浮て歩を止めし
    渡辺 幸江
  • 木道で交はすあいさつ草紅葉
    千葉ゆり子
  • 境内の落葉掃く音三拍子
    安達久美子
  • 高原の風に逆らひつゝ芒
    苅野 節子

わかみどり会

  • のんびりとバス待つ人ら着ぶくれて
    清水 悠子
  • 玄関を狭めし鉢や冬に入る
    畑山 則子

ミモザ会

  • 子も孫も帰りてやっと掃始
    佐々木巴里
  • 冬灯をさらに暗めて深庇
    三国 紀子
  • 常の座に常の夫婦や屠蘇祝ふ
    石橋万喜子

3月号

一般投句

  • 地震後の人形ケース煤払ひ
    川喜田秀雄
  • スカイツリー一緒に見むと賀状あり
    富所 敬子
  • クリスマス体温計と添ひ寝して
    原  良
  • 年果ての街に残心払ひけり
    戸田 徳子
  • ひらひらとはっぱがちるよかぜの中
    森おかゆう子

向原喜楽会・不動会

  • 数へ日にひまあり友を見舞ひけり
    安藤 虎雄
  • 数へ日の家事代行の忙しく
    小澤孝ん子
  • 毛筆の律義な賀状もう来ない
    半澤ハツ子
  • チキンにも真っ赤なリボンクリスマス
    柴崎 英子
  • 足らなきは足らなきまゝに年用意
    武井 康子
  • 街灯のほんのり照らす焼いも屋
    飯田久美子
  • 数へ日のきのふもけふもまたゝく間
    久保田光江
  • 一服を惜しみ庭師の十二月
    笹島美和子
  • ドクターの一語に安堵年暮るる
    廣門登喜子
  • 救急車来て一騒ぎ暮早し
    森崎 富貴
  • 石蕗咲けり五百羅漢のお膝元
    吉田 新子
  • 青春のリズムでダンス年忘れ
    川部 義明
  • 日記買ふ来年こそはと意気込みて
    佐々木 弘
  • 神官の幣束づくり師走かな
    宇都宮義長
  • 玄関の男所帯にポインセチア
    仲島  信
  • 女子大の裏の焼藷車かな
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 冬帝に挑む走者の息荒し
    苅野 玲子
  • 鴛鴦や無事を確かめ合ふ夫婦
    渡辺 幸江
  • 鴛鴦や肩を並べて老夫婦
    千葉ゆり子
  • 遠ざかる焼いもの声追いかけて
    安達久美子
  • 雑司ヶ谷霙となりし鬼子母神
    苅野 節子

わかみどり会

  • 夜会へのドレスアップにマスクして
    清水 悠子
  • 大声で子ら訪ね来る冬日和
    畑山 則子

ミモザ会

  • 黄昏に薄紅梅の香を放つ
    佐々木巴里
  • 街騒に呑み込まれゐる寒念仏
    三国 紀子
  • 水のんで空仰ぐ鶏桃の花
    石橋万喜子

4月号

一般投句

  • 初夢や盆景の富士岩一つ
    川喜田秀雄
  • 初春や風にゆらぎし縄のれん
    富所 敬子
  • 初東風や己に出会ふ旅に出む
    戸田 徳子
  • マフラーがかわいくかぜにおどってる
    森おかゆう子
  • いにしえのかぜをはこんでうめのはな
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 元朝に先づ奉る御神酒かな
    安藤 虎雄
  • それぞれのお国訛におめでたう
    小澤孝ん子
  • ゆるやかに余生を生きる薺粥
    半澤ハツ子
  • 初詣人に疲れて戻りけり
    柴崎 英子
  • 富士仰ぐ湯けむりのなか年あらた
    武井 康子
  • 剪り供ふ千両の実の重さかな
    飯田久美子
  • 静けさよ年頭ミサを待つ間
    久保田光江
  • 境内の箒目にある淑気かな
    笹島美和子
  • 初詣り託す思ひは平和なる
    廣門登喜子
  • 初日の出希望を託す昇り竜
    森崎 富貴
  • 業平の駅の名消ゆる去年今年
    吉田 新子
  • 梅の香に心軽やか散歩道
    川部 義明
  • 喜びも悲しみも果て冬の海
    佐々木 弘
  • 一人居の居間に陣取る鏡餅
    宇都宮義長
  • 寒木瓜や薄ら日の中咲き始む
    仲島  信
  • 庭隅の紅白梅の咲き競ふ
    西嶋 邦夫
  • 蝋梅に春待つ心託しけり
    山形 定房
  • 転居先不明と戻る賀状かな
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 厳しさを楽しさに替へ雪祭り
    苅野 玲子
  • 亡き母の声音まねして歌留多読む
    渡辺 幸江
  • 松過ぎて早や喧噪の中に入る
    千葉ゆり子
  • 筆よりも言葉を選び初硯
    安達久美子
  • 枝々に尾長群来る寒の朝
    苅野 節子

わかみどり会

  • 雪の中工事の音の遠くより
    清水 悠子
  • 思はざるときに佳きこと福寿草
    畑山 則子

ミモザ会

  • 雛人形共に傘寿を祝ひけり
    佐々木巴里
  • 梅にこそ綻ぶと言ふ佳き言葉
    三国 紀子
  • 紅梅や巫女の立ち居に鈴の鳴り
    石橋万喜子

5月号

一般投句

  • 壷に挿す二輪の椿会釈せり
    川喜田秀雄
  • 母は荷を子は袋背に春一番
    原  良
  • ひな祭り十人余りの宴となり
    富所 敬子
  • 薄氷にふれ逡巡の細き指
    戸田 徳子
  • さくら草の薄紅の色春を告げ
    矢代アリサ
  • 友チョコをあげたいバレンタインの日
    森おかゆう子
  • たびびとをそっとみているやえざくら
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 普段着のまゝのんびりと梅見かな
    安藤 虎雄
  • 庭園のアートとなりし臥竜梅
    小澤孝ん子
  • 転倒し肋骨いため二日灸
    半澤ハツ子
  • 一葉の短き恋や梅の花
    柴崎 英子
  • 休み田の土のふくらみ下萌ゆる
    武井 康子
  • 日々気まゝひとり住まひに春近し
    飯田久美子
  • ほころびは明日かと思ふ梅の紅
    久保田光江
  • いつもこの辺りより雪解けはじむ
    笹島美和子
  • 雪晴の光の中へ入りにけり
    廣門登喜子
  • マフラーのぐるぐる巻きもファッションと
    森崎 富貴
  • 愛犬も家族のひとり賀状くる
    吉田 新子
  • 災害の地にも春立つ気配あり
    川部 義明
  • 草萌えて賑やかになる散歩道
    佐々木 弘
  • 浅春の音締め漏れくる連子窓
    宇都宮義長
  • 黒塀に身を乗り出して梅白し
    仲島  信
  • カーブまたカーブ梅咲く峠越
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 春雨に黒く染まりし木々の幹
    苅野 玲子
  • 寒木瓜に乾ききったる空のあり
    渡辺 幸江
  • 土手並木独り静かに冬桜
    千葉ゆり子
  • 寒明けやパステルカラーの花市場
    安達久美子
  • 鬼の面つけ抱かれる子節分会
    苅野 節子

わかみどり会

  • どこまでも河津桜の道つゞく
    浅田 智子
  • 暖かき日差し背にして信号待つ
    清水 悠子
  • 硝子戸を鳴らす海風春浅し
    畑山 則子

ミモザ会

  • 彼岸過ぎ鉢植すべて庭に出し
    佐々木巴里
  • 残る鴨浮寝むさぼる一羽かな
    三国 紀子
  • 春しぐれ枯山水の渦模様
    石橋万喜子

6月号

一般投句

  • スカイツリーとは三月十日の供養塔
    川喜田秀雄
  • 広島産大長と言ふ胡瓜食ふ
    原  良
  • 著莪の花遠き生家の庭に在り
    富所 敬子
  • オペ了る生きよと花の輝けり
    戸田 徳子
  • 花見してあそんだあとはかなしいよ
    森おかゆう子
  • ひろしげのえはにほんばしはるのくも
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 水温む親子のオールゆるやかに
    安藤 虎雄
  • 天皇陛下御快気と聞く水温む
    小澤孝ん子
  • 余寒なほ含みて苦し粉ぐすり
    半澤ハツ子
  • びいどろの雛様の面透きとほる
    柴崎 英子
  • 笑顔やがて涙となりし卒業歌
    武井 康子
  • 通されし書院に桃の花明り
    飯田久美子
  • 遺品なる母のひゝなの眼のやさし
    久保田光江
  • 桜餠母の忌日の姉妹
    笹島美和子
  • たんぽぽの花そり返る日和かな
    廣門登喜子
  • 春立つやひいばあさんとなりにけり
    森崎 富貴
  • たんぽぽを見つけて少し嬉しくて
    吉田 新子
  • のびのびとラジオ体操風光る
    川部 義明
  • 胸内に母のしぐさや土筆摘む
    佐々木 弘
  • 震災を心に彼岸詣かな
    宇都宮義長
  • 初々し檀家廻りの彼岸僧
    仲島  信
  • 今年また息災にわが雛に会ふ
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 種を蒔く人を見下す鴉かな
    苅野 玲子
  • 下萌や野仏どれも動きさう
    渡辺 幸江
  • 霾や物干し今日も一拭きし
    千葉ゆり子
  • 種蒔きや区民農園にぎはひて
    安達久美子
  • 枝々に短冊の揺れ梅探る
    苅野 節子

わかみどり会

  • 春一番思いっきりの無駄使い
    清水 悠子
  • 着手せぬ工事予定地地虫出づ
    畑山 則子

ミモザ会

  • 遠足やリュック並べて土手の上
    佐々木巴里
  • 犇めきて馬酔木の花は鈴振れず
    三国 紀子
  • 緑蔭に座す木洩れ日を身にまとひ
    石橋万喜子

7月号

一般投句

  • 目覚めれば病葉を摘む吾がたつき  
    川喜田秀雄
  • ピーマンが熟れて鴉とにらめっこ  
    原  良
  • 風薫る銀杏並木の色の濃き     
    富所 敬子
  • 天清和一木一草瑞々し       
    戸田 徳子
  • ジャスミンの香りにむせぶ初夏の朝 
    矢代アリサ
  • こいのぼりまだゆれてないさびしいな
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 放射能出ていませんと茶摘かな   
    安藤 虎雄
  • ちょとカーデガン羽織っただけの花衣
    小澤孝ん子
  • 桜より桜へと押す車椅子      
    半澤ハツ子
  • 花衣一ト日の余韻たたみけり    
    柴崎 英子
  • 再会に心ときめく花衣       
    武井 康子
  • 篝火に映えて粋なる花ごろも    
    飯田久美子
  • 花衣たたみつ偲ぶ姉のこと     
    久保田光江
  • 花衣畳み即ち厨妻         
    笹島美和子
  • 万緑や息を大きく風の中      
    廣門登喜子
  • 嫁娘孫も女や柏餠         
    森崎 富貴
  • 花一つ添へあるランチレストラン  
    吉田 新子
  • 蘇へる青春の日々花吹雪      
    川部 義明
  • 初蝶や出会ひも別れも束の間に   
    佐々木 弘
  • 蹴り競ふふらここ高く高くかな   
    宇都宮義長
  • ふらここを落ちて泣けどもこぎ始む 
    仲島  信
  • やうやくに癒えて残花を仰ぎけり  
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 雨止みし報せのごとく囀れり    
    苅野 玲子
  • 散りたての花びら掬ひおままごと  
    渡辺 幸江
  • 弁当の予約ためらふ遅桜      
    千葉ゆり子
  • 物置に見つけし父の遍路杖     
    安達久美子
  • 青麦のビロードの波風の波    
    苅野 節子

わかみどり会

  • アカシアの花が馳走のおままごと  
    畑山 則子

ミモザ会

  • 筍が土盛り上げて嵯峨野みち    
    佐々木巴里
  • いづれかと名札確かめあやめなる  
    三国 紀子
  • じゃんけんで勝ちては進むこどもの日
    石橋万喜子

8月号

一般投句

  • 剪定の枝貰ひ受く黐の花
    川喜田秀雄
  • 鳴神や堂裡読経の声に和す
    原  良
  • 退院の朝咲くれし花菖蒲
    富所 敬子
  • 精緻なる文字盤あえか時計草
    戸田 徳子
  • 母の日にママ大すきとえてがみを
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 母の日や母を越えたる我が齢
    安藤 虎雄
  • 母の日の母も達者で留守がよく
    小澤孝ん子
  • 葉桜を右に左に通院す
    半澤ハツ子
  • 母の日や母はいつでも身奇麗に
    柴崎 英子
  • 母の日や苦楽を共の手を握る
    武井 康子
  • 寝ころんで転がりて子等若草に
    飯田久美子
  • 卯の花や小学唱歌口ずさむ
    久保田光江
  • 筆置いて大きく背伸び柿若葉
    鈴木恵美子
  • 母の日や母無きことにまだ慣れず
    笹島美和子
  • 緑蔭の広きに心遊ばせて
    廣門登喜子
  • 仮住みのカーネーションを飾る部屋
    森崎 富貴
  • 晴の日を賜り三社祭かな
    吉田 新子
  • 新緑に新たな力貰ひけり
    川部 義明
  • 囀や散歩の足の軽くなる
    佐々木 弘
  • 祭足袋揃へ若衆の勢揃ひ
    宇都宮義長
  • 被災地の命の叫び若葉萌ゆ
    仲島  信
  • 葉桜やパパに任せし乳母車
    黒澤三主寿

竹の子会

  • いつの間に土手埋め尽くし諸葛菜
    苅野 玲子
  • 京筍まとひし皮も役者色
    渡辺 幸江
  • 梯子掛け願ひを掛けて袋掛
    千葉ゆり子
  • 袋掛産衣を着せるごとくにも
    安達久美子
  • 亡き母に贈るなら赤カーネーション
    苅野 節子

わかみどり会

  • 夏めきてドレス華やぐ集ひかな
    清水 悠子
  • 初夏や如雨露の先は象の鼻
    畑山 則子

ミモザ会

  • 夏帯の背すぢまつすぐ伸ばしけり
    佐々木巴里
  • 拭き込まる百間廊下緑さす
    三国 紀子
  • 夜更けにも風を放さぬ軒風鈴
    石橋万喜子

9月号

一般投句

  • 待つほどは音の遅れず遠花火
    原  良
  • 茉莉花の二度咲きなるもなほ愛し
    富所 敬子
  • 開かぬ窓空へ積み上げビル灼くる
    戸田 徳子
  • ベランダにいろとりどりの傘の花
    矢代アリサ
  • ふじのやまたかいよたかいなつのそら
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 梅雨寒や猫をいだきて眠りけり
    安藤 虎雄
  • 鈴蘭の小さきささやきみやげとす
    小澤孝ん子
  • みちのくに想ひを馳せり梅雨に入る
    半澤ハツ子
  • 葉桜の洩れ日揺ら揺らカフェテラス
    柴崎 英子
  • あぢさゐを右に左に峠越
    武井 康子
  • 鈴蘭の葉かげに揺れる花の数
    飯田久美子
  • 道端にさへも鈴蘭北の町
    久保田光江
  • 今日だけは江戸っ子となる初鰹
    鈴木恵美子
  • 更衣ハイカラといふ褒め言葉
    笹島美和子
  • 娘の指の気どりてつまむさくらんぼ
    廣門登喜子
  • 雨の朝あぢさゐの精今日何処に
    森崎 富貴
  • ちちははに無かりし余生鮎の宿
    吉田 新子
  • 紫陽花の白鮮やかな月夜かな
    川部 義明
  • 短夜や夢結ぶ間もあらばこそ
    佐々木 弘
  • 若鮎や微動だにせず老釣師
    宇都宮義長
  • 鮎を釣る竿をすべりし日の光
    仲島  信
  • 留守の間に大事な草も引かれをり
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 「ただいま」と守宮に声をかけ鍵を
    苅野 玲子
  • 女王の威厳を乗せて夏の川
    渡辺 幸江
  • 網戸越し猫のおもちゃの守宮かな
    千葉ゆり子
  • 戸袋が守宮の住処ワンルーム
    安達久美子
  • 山道の青葉青葉の中を行く
    苅野 節子

わかみどり会

  • 西瓜売同じ縞柄シャツを着て
    清水 悠子
  • 若衆の声をからして祭果つ
    畑山 則子

ミモザ会

  • わたくしの眼鏡どこやら昼寝覚
    佐々木巴里
  • 滴りの留まることを許されず
    三国 紀子
  • かなかなや暮れゆく雲の珊瑚色
    石橋万喜子

10月号

一般投句

  • 孫の住む北の空には鰯雲
    池田 重子
  • 個室にてひがな付添ふこれも避暑
    川喜田秀雄
  • 夏草を揺らし飛立つ雀五羽
    富所 敬子
  • 紫煙ともならず咽びし新煙草
    戸田 徳子
  • みずいろにそまっているよなつのかぜ
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 白玉は幼き頃の母の味
    安藤 虎雄
  • 海開いつもの海と思へども
    小澤孝ん子
  • パン一つ鳩と分け合ふ日永かな
    半澤ハツ子
  • 白玉や白の浮きたつ塗りの椀
    柴崎 英子
  • ガラス器に笹を敷きたる夏料理
    武井 康子
  • 白玉にひかれて暖簾くぐりけり
    飯田久美子
  • 松葉牡丹めざめてけふのはじまりし
    久保田光江
  • 目立たなく目立ちて松葉牡丹咲く
    鈴木恵美子
  • 白玉を掬ひ思ひ出話また
    笹島美和子
  • 踏み外しさうな歩板も避暑散歩
    廣門登喜子
  • 添へられし家族の写真お中元
    森崎 富貴
  • 甚平をまだ着たがらぬ夫であり
    吉田 新子
  • 帰途急ぐ坂の上なる夕立雲
    川部 義明
  • 中元として山門を入る野菜かな
    宇都宮義長
  • 撫子や出舟見送る運河べり
    仲島  信
  • 会ふことの絶えお中元届きけり
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 木洩れ日の中に浮んで夏館
    苅野 玲子
  • せせらぎの音病葉を乗せ走る
    渡辺 幸江
  • ブナ木立星が照らして夏館
    葉ゆり子
  • 井戸水にあれこれ冷やし夏館
    安達久美子
  • 木苺を探す今年も同じ場所
    苅野 節子

わかみどり会

  • 色変へて星幾重にも揚花火
    清水 悠子
  • 心太つい口に出て内緒ごと
    畑山 則子

ミモザ会

  • 疎開地の山の懐かし蝉しぐれ
    佐々木巴里
  • 木槿垣白がもっとも耀かに
    三国 紀子
  • 新涼や海に日の入る朱の鳥居
    石橋万喜子

11月号

一般投句

  • けたたまし百舌の叫びに夕日おち
    池田 重子
  • 門限の間は循環バスに避暑
    川喜田秀雄
  • 夕焼がとてもきれいだ見てごらん
    原  良
  • 畑仕事終るを待てり彼岸花
    富所 敬子
  • 願ぎごとを発す間もなく星流る
    戸田 徳子
  • どんぐりがえかきのぼうしかぶってる
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 流れくるピアノの調べ星月夜
    安藤 虎雄
  • 残暑続きオリンピックも続きをり
    小澤孝ん子
  • 白玉や尖りし心和みけり
    半澤ハツ子
  • 南国の夜の華やぐ星月夜
    柴崎 英子
  • なつかしやままごとあそび赤のまま
    武井 康子
  • 露天湯を照らす今宵の星月夜
    飯田久美子
  • 白玉のつるりと抜けし匙の先
    久保田光江
  • 立秋の朝焼雲をふちどりし
    鈴木恵美子
  • 手かざしで塞いでもみる秋夕日
    笹島美和子
  • 鈴虫に夜を盗られて仕舞ひけり
    廣門登喜子
  • お持たせの梅酒に心うちとけて
    森崎 富貴
  • 爽やかや先のことなど案ずまじ
    吉田 新子
  • マンションの噂の消えて草の花
    佐々木 弘
  • 虫時雨森の奥より押寄せ来
    川部 義明
  • 露草や朝の散歩の足濡らす
    宇都宮義長
  • 行商の背籠に揺れる桔梗かな
    仲島  信
  • 街の灯を目ざして下る星月夜
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 夏萩を揺らす風あり山の家
    苅野 玲子
  • 襲名の市川団子声涼し
    渡辺 幸江
  • ロンドンの声援暑き夜となり
    千葉ゆり子
  • 憧れの祖母の香のある古扇
    安達久美子
  • 胡弓の音つれて踊るや風の盆
    苅野 節子

わかみどり会

  • 松手入小雨の中を休まずに
    清水 悠子
  • ちゃん付けで犬呼んでゐる花野中
    畑山 則子

ミモザ会

  • むら雲をよけて昇りぬ月今宵
    佐々木巴里
  • 秋蝉の思ひあるかにつまづける
    三国 紀子
  • 水澄むや水切り石を子に拾ふ
    石橋万喜子

12月号

一般投句

  • 龍雲寺はた本門寺へと秋のバス       
    川喜田秀雄
  • 空高く見上げるほどの金木犀        
    富所 敬子
  • 新米のきらめき災禍忘れまじ        
    戸田 徳子
  • 隅田川澄みてうつせる武蔵の塔       
    矢代アリサ
  • あかとしろみんなしんけんうんどうかい   
    きりいのぞみ

向原喜楽会・不動会

  • 籠かつぎ虫売の声遠ざかる      
    安藤 虎雄
  • うす雲をはをりて月のお出かけか      
    小澤孝ん子
  • 坪庭の小さな景色虫時雨          
    柴崎 英子
  • 満月をいづくに見るや子を思ふ       
    武井 康子
  • 門灯をともす一歩に鉦叩       
    飯田久美子
  • 神輿待つ提灯に灯が入りにけり       
    鈴木恵美子
  • 船窓に陸の傾き今日の月          
    笹島美和子
  • 朝露やぽつんと残る夫の杖         
    廣門登喜子
  • 新しき家に荷を解く秋日和         
    森崎 富貴
  • 昨日今日ひがな雨降りそぞろ寒       
    吉田 新子
  • 短命な姉でありしよ彼岸花         
    佐々木 弘
  • 紫の風に光りし桔梗かな          
    川部 義明
  • 充分に努め果たして秋簾          
    宇都宮義長
  • 日の落ちし運河風聞く虫の秋        
    仲島  信
  • どこからとなく何時の間に萩の蝶      
    黒澤三主寿

竹の子会

  • 木洩れ日の揺れてとんぼも定まらず     
    苅野 玲子
  • はらからの慕わしき日や秋海棠       
    渡辺 幸江
  • 待ち侘びて話とぎれる雨月かな       
    千葉ゆり子
  • 釣好きの父食卓は鯊ばかり         
    安達久美子 
  • 闇深く独り居に聴く鉦叩          
    苅野 節子

わかみどり会

  • 念入りな肌の手入れも冬支度        
    清水 悠子
  • 誰か呼ぶ声に出て見る秋の虹        
    畑山 則子 

ミモザ会

  • 七輪を知らぬ世代と秋刀魚焼く       
    佐々木巴里
  • 乱れ萩風に身動きまゝならず        
    三国 紀子
  • ねんねこやいつからおぼえしひとみしり   
    石橋万喜子